『人に話したくなる数字と科学の話』

 ヒトの遺伝子数は2万2000、宇宙の年齢は138億。はたまた“3秒ルール”は本当か? 世界を数字と科学で読み解こう――。サイエンスライター・佐藤健太郎さんの新刊『人に話したくなる数字と科学の話』(文春新書、8月20日発売)には、ちょっとした話題にぴったりの79のトリビアが収録されている。

 今回はその中から、「122」と「164」についての一話をお届けしよう。

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人類の最長寿記録【122年164日】

 命あるものには全て、必ず終わりの時がやってくる。これは決して変えられぬ定めと知りつつも、できる限り健康に長く生きたいと望まぬ者はいないだろう。では人間は、いったいいつまで生きることができるのだろうか。

 人類の歴史上、最も長生きしたとされているのは、フランスのジャンヌ・カルマンだ。1875年に生まれた彼女は、実に122年と164日という長い人生を全うし、1997年に亡くなった。以来30年近く、この数字を上回る者は現れていない。

 だがこの記録には、以前から疑問が持たれていた。何しろ122年という記録は、歴代2位の長寿者を3年以上引き離すダントツの数字であるから、相当に異様に見えるのは確かだ。このため、ジャンヌは実は1934年に59歳で亡くなっており、それ以後は相続税を逃れるために娘のイヴォンヌが母になりすましていたという説が囁かれていたのだ。であればイヴォンヌが死去したのは、実際には122歳ではなく99歳であったことになる。

 2018年12月、ロシアの研究者ノボセロフらがこの説を検証した結果を発表した。彼らはその論文で、ジャンヌの若い頃の身分証明書にある身体的特徴が晩年の彼女と一致しないこと、若い頃のイヴォンヌと、晩年のジャンヌの顔の特徴が類似していることなどを挙げ、なりすましの可能性が高いと結論した。また、彼女が有名になった後に、若い頃の写真の一部を焼き捨てるよう指示していたことも、疑惑を深める一因となった。

 古い時代の戸籍は不備が多いから、長寿記録が覆るのは決して珍しいことではない。たとえば、かつて120歳で世界最長寿とされていた日本の泉重千代は、15歳年上の兄と混同されていた可能性が高いとして、現在では記録から除外されている。

 多くの老年医学者らは、ジャンヌの年齢は十分な検証を経たものであり、今回の指摘は取るに足りないと考えているようだ。しかしノボセロフらは、決着をつけるためにジャンヌの遺体を掘り出して、DNA鑑定を行うべきと主張している。学問的に重要な問題とはいえ、一般人のプライバシーを暴き、死者を地下から引きずり出すようなまねをすべきなのか、このあたりは死生観にもからむ問題だろう。人類の究極の問題をめぐる論争は、まだまだ終わりそうにない。

(追記)2019年9月、フランス国立保健医学研究所の研究チームは、新たに見つかった文書などを精査し、ジャンヌの年齢は詐称ではないことを確認したと発表している。

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