誰もが羨む二組の夫婦がいる。しかし彼らの揺るぎない幸福と愛情は、ある事故で無残に崩れ去る。
主演の編集者、瀬尾咲子役は蒼井優。松山ケンイチ演じる夫の充が長野でバス事故に遭い行方不明に。
バス旅行のことを咲子は知らされていなかった。第三金曜日に充は、近所に住む園田あずさ(夏帆)とコインランドリーで逢っていた。Tシャツなどが乾くまで、談笑していたという。そして夏の第三金曜日に、二人は長野行きのバスに乗り、あずさは亡くなり、充はまだ見つからない。
秘密の時間が残された者の心を侵蝕する。あずさの夫、樹生(いつき)の顔は陰惨さを増す。第三金曜日の秘密に耐えかねた樹生は咲子に「あなたの夫、僕の妻と不倫してましたよ」と叫ぶ。
第一話ラストの、この衝撃シーンを観て、私は(これは不倫ドラマじゃないな)と確信した。丁寧なドラマ作りをする脚本家が第一話から手垢にまみれた不倫なんて言葉を軽々しく使うわけがない。多くの視聴者を惑わす罠だ、これは。
夫を疑わない咲子とは反対に、樹生は妻の秘密を知るために、その心は一種の狂気を帯びていく。彼のために咲子は、あずさと充を知る人間を一緒に訪ねる。
あずさがバイトしていた古書店の店主、宮内は樹生と咲子を見て「切り替え、早いね」と毒を吐く。「同じ悲劇を味わった者同士で、喪失を埋めるために惹かれあったの?」。そして、これあずさちゃんが読んでいた本といって、三島由紀夫の『愛の渇き』を出す。「どんな本ですか?」と咲子が訊くと「不倫の話」。
またしても罠だ。『愛の渇き』は二重、三重の意味で不倫小説ではない。聡明でロマネスクな悦子という女性の心理を巧みに描いた品格ある小説だ。
充が営む喫茶店の店員、直人(高橋文哉)もまた不穏な気配をまとう。充が咲子の愚痴をよく口にしていたというが虚言のようだ。店長夫婦になぜ悪意を持つのか。SNSに、直人は咲子と充のどちらに嫉妬しているのかという疑問が載っていた。そうか!
『愛の渇き』の悦子は、知性とは無縁な逞しい若者に焦がれる。そんな若者を熱を込めて描く三島。三島を耽読した出口裕弘氏は「女に仮装させられた」「ひとひねりしたホモセクシュアル小説」と記した。
第三話。充が途中でバスを降りていたとわかる。誰にでも愛想の良かった充。苦手な人っていないんですかと直人に訊かれた充は「人を嫌いにならないコツがあるんだよ。嫌いになる前に、自分から離れる」。充は生きていた。咲子を嫌う前に夫は消えたのか。
あずさも充も養護施設のような場所で育ったらしい。この先、一話ごとに脚本家が投げつける謎に挑戦する日々が楽しみだ。
『Tシャツが乾くまで』
TBS 金 22:00~
https://www.tbs.co.jp/tshirt_ga_kawakumade_tbs/




