「祖先から受け継いだ領土」

池上 「香港とマカオはすでに取り戻した。次は台湾と南シナ海だ」という習主席の意志は、失地回復そのものです。

川北 2012年12月に開かれた軍事委員会の拡大会議で、習主席は「指導部が銘記すべき三つのこと」という講話を行ないました。すなわち、中国五千年の優れた文化を失ってはならない。先人が築いた正しい政治制度を壊してはならない。祖先から受け継いだ領土を縮小してはならない。

「香港一の健筆」と言われたジャーナリストで、有力紙『信報』の主筆だった練乙錚さんは、「三つ目が大事だ」と私に語りました。「失った領土を取り戻す」という含意があって、まさにそれが台湾と南シナ海だというわけです。

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池上 最近、人民解放軍では、習主席自ら引き上げた幹部たちが、次々に汚職で失脚しています。どう見ていますか。

川北 正直わかりません。中国に詳しい専門家に聞くと、今の軍事委員会の幹部では習主席の意志を貫徹できないからだ、という見方があります。習主席は、政治の師と仰ぐ毛沢東の「政権は銃口から生まれる」という言葉の通り、中国では軍を握らなければ本当のトップになれないことを、よく知っています。

池上 粛清して自分の言うことを聞く連中を後釜に据えて、台湾を軍事的に取ろうという意思が下まで届く形を作っているのかな、とも思えます。

川北 その可能性もあるでしょう。5月の米中首脳会談で、「建設的な戦略的安定関係」を構築するという、わかったようなわからないような合意がありましたね。私は、台湾で独立の気運が盛り上がるなどの変化が生じなければ、取りあえず双方とも事を起こさない、と確認したんだなと理解しました。

「スターリンの長い手」

池上 中国ではこの7月から、「民族団結進歩促進法」という法律が施行されました。民族の団結を損なったり分裂を示唆したりした、とみなされる行動や言論を取り締まる、恐ろしい内容です。

川北 愛国で団結しようという点が、プーチン大統領と似ていますね。共産党や習主席指導部の範疇に入らない者はすべて敵だと見なし、国内の紐帯を強めていこうという狙いです。

北京の式典での習近平とプーチン

池上 それにしても、国外に住む人や外国人まで処罰の対象にするとは驚きました。ロシア革命の指導者で失脚したトロツキーが、1940年に亡命先のメキシコで殺されたでしょう。あの時に「スターリンの長い手」という言葉があったのを思い出しましたよ。

《この続きでは、トランプ大統領の当選を予測していた経済学者の本、MAGA派はなぜイラン攻撃を支持するのか、川北氏が最も懸念する権力者たち行動、見えてきた光明などについて語っている。記事の全文は「週刊文春 電子版」および8月6日(木)発売の「週刊文春」で読むことができる》

構成・石井謙一郎

(かわきたしょうご/1963年、神戸市生まれ。慶應義塾大学卒業後、86年共同通信社入社。ブリュッセルやワシントンで特派員を務め、整理部長などを歴任。現在、編集委員兼論説委員。)

(いけがみあきら/1950年生まれ。ジャーナリスト。2005年にNHKを退局してフリーに。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院特命教授などを務める。著書に『池上彰のマネーはどうなる?』ほか多数。)

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