「おばあちゃんになるまで続ければいつか…」医療関係の業務委託として働きながら執筆を続けた、新芥川賞作家・小砂川チトのデビュー前夜
働きながらどこでも書いていた
――自分には向いていないな、ということですか。
小砂川 そうですね。かといって、じゃあ私はこの先何をするんだと考えたとき、学生時代から何となく小説を書く書くと宣言はしながら書かない、ということを繰り返していたので、いずれ働かなくちゃいけないけど、いったんこのタイミングで、ちょっと自分を試してみる時間を取ってみてもいいのかな、と思ったのがきっかけだったと思います。就職活動はせず、医療関係の業務委託として働きながら小説を書く道を選びました。
――しかし、それはなかなか冒険的な進路選択では……。
小砂川 そうですね。家族からすれば「おやおや?」というチョイスだったと思います(笑)。
でも、そのへんはみんな案外ものわかりよく、最終的には「頑張れ」と励ましてくれましたね。
――そこから2022年のデビューまで約7年、働きながら投稿を続けられたんですね。
小砂川 はい。業務が忙しい時もあったり、暇な時もあったりと時期によってまちまちでしたが、働きながら時間さえあればどこでも書いていました。
いざ書き始めると、アイデアめいたものがわりと無尽蔵に湧いてきたんです。それが数カ月で300枚のファンタジー作品になったので新人賞に投稿したところ、最終選考の手前まで進みました。「これはいける!」としばらく投稿を続けたんですが、その後は全然引っかからなかった。
それで、2020年だったと思いますが、思い切って純文学の賞に応募してみたら、今度は最終候補に残りました。
――純文学のほうが向いていた?
小砂川 いまだに自分でもよくわかっていないんです。とくに賞によって書きわけていたわけでもないので。
――「何年で芽が出なかったらやめる」と期限を設ける人も多いですが……。
小砂川 なぜかその発想はまったくありませんでした。たしかに、デビューできなかったらどうするつもりだったんでしょう……。何の根拠もなく、「おばあちゃんになるまで続けていたら、いつかは作家というものになれるのではないか」と思っていました。それに、新人賞への投稿を続けているうち、これはすごく楽しい試みだなって思い始めてもいましたし。
※本記事の全文(約7000文字)は、月刊文藝春秋の電子版「文藝春秋PLUS」に掲載されています(小砂川チト「就職しない。家族も『おやおや?』の選択から」)。全文では、押井守作品などこれまでの人生で影響を受けた作品、『ゾンビ回収婦』執筆の背景などについて語られています。
※「文藝春秋PLUS」には、小砂川さんの「受賞のことば」、芥川賞選考委員による選評も掲載されています。
出典元
【文藝春秋 目次】芥川賞発表 受賞作全文掲載 小砂川チト「ゾンビ回収婦」/「高市総理よ、日本を壊すな」細川護熙/がん15部位 早期発見ガイド
2026年9月号
2026年8月10日 発売
1480円(税込)
