朝日新聞の天声人語は、板東英二さんを追悼しながら「球数制限がある今、1大会83奪三振の記録が破られることはもはやないだろう」と書いていた。締めは「選手が楽しく、何より安全にプレーできるように。板東さん、見守ってください」。天声人語はその後の安全対策にも触れている。ただ、この締めを読んで、少し牧歌的すぎないかとも感じた。なぜなら朝日新聞には忘れてはいけない「過去」もあるからだ。
熱中症や救急搬送については一言も触れなかった
2018年、西東京大会決勝。日大鶴ヶ丘のエース・勝又温史投手は154球を投げ、試合後に熱中症で救急搬送された。スポーツ紙も毎日新聞も読売新聞も東京新聞も、その事実を報じた。
一方、大会主催者でもある朝日新聞は、試合を2ページにわたって大きく報じ、勝又投手の力投や敗者のドラマも丁寧に伝えた。しかし、熱中症や救急搬送については一言も触れなかったのである。
私は当時、この文春オンラインでこの事実を取り上げ、「美談だけを積み重ねても、高校野球は守れない。危険な現実を伝えることが、次の改善につながる」と書いた。
あれから8年。高校野球は少しずつ変わってきた。だから今回、田中将大の「甲子園ありきで考えるから、おかしくなるのでは」という言葉が印象に残ったのだ。
次に見直すべきものは、野球のルールなのか。それとも、「甲子園ありき」という前提なのか。もちろん、ドーム開催が正解なのかどうか私にもまだわからない。これを書いている今も、一人で勝手に悩み続けている。
ただ、7回制を議論するのであれば、「甲子園でやる」という前提も同じように議論のテーブルに載せていいはずだ。
10年前の私は、ドーム開催論を「愛のない正論」ではないかと思っていた。だが、これだけ酷暑が深刻になったいま、それは「切実な正論」になりつつあるのではないか。
この夏、主催者である朝日新聞が、この問題をどう論じていくのかにも注目したい。
