当時、長男は幼稚園に通っていましたが、登園させることもままなりません。子どもは事情を理解できないため「幼稚園に行きたい! 友だちに会いたい!」と泣き叫びますが、妻はただ息を潜めて耐えるしかありませんでした。
盗撮加害者の約6割が結婚歴のある人
盗撮犯というと、モテなさそうな独身男をイメージする方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、これまでクリニックを訪れた盗撮加害者1031名のデータでは、結婚歴のある人は全体の約6割で、田中氏のように子どもがいる人も少なくありませんでした。なかでも深刻なのが、性加害者の妻たちに向けられる性欲原因論に基づいた偏見です。
夫が盗撮などの性加害で逮捕された場合に、「妻が夫の性欲のケアをしていなかったからだ」「夫婦間でセックスレスだったから、夫が性加害をしたのだ」など、性欲の解消と事件の因果関係を結びつける言説です。夫婦の性交渉と性犯罪には、相関関係はありません。
性犯罪を性欲の問題に矮小化するこの言葉が、さらに罪深いのは、加害者までもが「そうか。自分がした性加害は、妻とはセックスレスだったからしかたなかったのだな」などと自身を正当化してしまう点です。
子どもが性犯罪をした場合、親への批判の目はすさまじいものです。
親はどこまで子どもの罪を償うべきか
本来、親と子どもは独立した存在ですし、「親の育て方」と子どもの性加害との直接的な相関関係を示すエビデンスはありません。もちろん、未成年者の起こした事件では保護者が示談金を支払うケースが多いですが、それでも加害の全責任を親が負うべき理由はないはずです。
しかし、性加害者の親、特に母親には「親がしっかりと教育しなかったからだ」「どんな子どもの育て方をしたのか」といった「子育て自己責任論」が集中的に浴びせられます。詳しくは、拙著『夫が痴漢で逮捕されました 性犯罪と「加害者家族」』(朝日新聞出版)で取り上げていますが、欧米諸国ではこうした家族を支援すべき対象としてとらえる仕組みが整いつつあります。