アメリカの「本当の衰退」の可能性
それでも国内では、アメリカのあり方をめぐる市民の分断が深まり、「多様性の中の統一」という合衆国の理念が危ぶまれる状況になっている。トランプ政権による外交、軍事での打ち手が、世界との距離を広げ深めているのだ。いわば「衰退なき衰退」のような状況にアメリカはある。衰退しているのはGDPや軍事力ではない。強大なパワーをもってしても国内をまとめられず、長期的な成長基盤を築く能力の衰退である。
それはやがて、アメリカ自身のパワーの源泉をも断つことにつながりかねない。例えば、厳格化されたビザ政策によって海外からの優秀な人材の流入が減り、頭脳循環が大きく滞り始めている。国務省によれば、F-1(学生)ビザの発給数は昨年夏の入学前のラッシュ期に前年比36%減を記録した。米中対立の結果、中国の科学者や留学生の多くがアメリカを離れ、中国大陸などへ移籍している。若き才能の大供給地であるインドからの留学生は大きく減少しており、昨年夏に前年比6割減であった。
その背景には、大学や研究機関への圧力や助成削減があるが、それを好機とみた中国や欧州、カナダ、韓国はアメリカが逃した人材を競うように取り合っている。ネイチャー誌の調査によれば在米研究者の75%が国外への移籍を検討している。生活基盤の移転を伴う頭脳循環は、ドルや株価と違って、一夜では戻らないが、それでは科学技術、そして経済発展の推進力を失いかねない。
統計という国家のいわば感覚器官さえ危うい。2025年8月、雇用統計の悪化が公表された当日、大統領は労働統計局長を解任した。国内を立て直すことができなければ、アメリカは結果的には本当に衰退してしまうことになる。
※本記事の全文(約9500字)は、月刊「文藝春秋」9月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(佐橋亮「アメリカはなぜ、強いまま壊れるのか」)。 全文では、下記の内容をお読みいただけます。
・大統領への権力の集中
・複数の回路で動くアメリカ
・中間選挙と2028年大統領選
出典元
【文藝春秋 目次】芥川賞発表 受賞作全文掲載 小砂川チト「ゾンビ回収婦」/「高市総理よ、日本を壊すな」細川護熙/がん15部位 早期発見ガイド
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