米国とイスラエルによる大規模奇襲攻撃で始まったイラン戦争も、緒戦こそ、強大な軍事力を誇る米国が圧倒したが、その後はイランが、「ドローンなどの安価で大量の兵器」と「ホルムズ海峡封鎖」という「非対称戦略」でトランプ大統領を追い詰めて徐々に形勢を逆転させ、イランに圧倒的に有利な「14項目の覚書」の締結に至った。

 これまで独自の分析で数々の予測を的中させてきたトッド氏は、イラン戦争とウクライナ戦争は「地続き」であると語る。その詳細について語った。(通訳=大野舞)

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戦争の継続そのものがウクライナ国家の存在理由に

 現在、ウクライナは、戦争を続けていますが、彼らがこの戦争から自力で脱却するのは不可能でしょう。『西洋の敗北』で指摘した通り、ロシアとの戦争それ自体がウクライナの“国家としての存在理由”と化してしまったからです。

エマニュエル・トッド氏 Ⓒ文藝春秋

 ウクライナは、ロシアとの戦争なしには、社会としての結束や均衡を見出せず、国民国家として存在できないからこそ、終わりのない戦争が続いているのです。欧米による軍事支援と資金援助で続けているこの戦争こそが、ウクライナの人々にとっての「生きる意味」となり、「生きる手段」となってしまったのです。

 今日、ウクライナでは、国を捨てて国外へ逃れる人々が後を絶たず、深刻な人口流出が起きていますが、彼らは「この戦争にもはや意味はない」と見切りをつけて普通の平穏な生活を求めた人たちです。その結果、残されたウクライナ国内では、「自殺行為でしかないロシアとの戦争」を肯定する、非合理的な国粋主義が純粋培養されています――同じ現象が好戦的になる一方のイスラエルでも起きています――。

 それゆえ、彼らに武器を与え続けるかぎり、彼らは戦い続けるでしょう。戦争の継続そのものが、ウクライナの国家の存在理由となり、もはや平和な状態を思い描くことすらできなくなっているからです。

 ロシアが要求していたのは、「クリミアの維持」「ドンバス地方のロシア系住民の生活と安全の保障」「ウクライナの中立的立場の維持」の三つです。もしウクライナ国民が「西欧の一員としてのウクライナ」という立場に自ら自信をもてていたのなら、これらの三つの条件は問題なく受け入れられたはずです。

戦いを続けるゼレンスキー大統領 ⒸEPA=時事

 冷戦終結後、共存を望まなくなったチェコ人とスロバキア人は、友好的に分離独立を果たしました。ウクライナも、「ロシア人とウクライナ人はもはや共存できない」と公式に認めることで、もともと「ロシア」だった地域をウクライナから切り離し、「本来のウクライナ」として、国際的に承認される真の国民国家の建設へと邁進できたはずです。ところが、ウクライナは、病的なまでにロシアへの執着心を示しています。「ロシア」という存在が、ウクライナにとって、ネガティブな意味で強迫観念となってしまい、ロシアとの対立を心理的に“必要”としているのです。今日のウクライナは、国家として自殺しつつあります。

 米国のウクライナ支援の目的は、「ウクライナを救うこと」ではありません。戦争に勝利するのはもはや不可能となったなかで、「ロシアにできるだけ多くの犠牲を強いること」「ロシアを可能なかぎり弱体化させること」が彼らの目的となっています。それゆえに、米国は、「ウクライナ人が最後の1人になるまで」、ウクライナに戦わせるでしょう。つまり、ウクライナは“支援”を続ける西洋によって事実上“死刑”を宣告されているわけです。