8月19日に訃報が報じられた女優・作家の岸惠子さんは、『伊豆の踊子』『雪国』などで知られる川端康成と親交があった。ノーベル文学賞を川端が受賞したときには、岸さんも授賞式に同席した。その日の記憶を、生前の岸さんが文藝春秋に明かしていた。
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《飛行機の切符? 自分で買ったよ!》 啖呵は胸で呟いた
1968年の冬たけなわのこの日、スエーデンの首都ストックホルムは雪に覆われ、キラキラ凍えてうつくしかった。飛行機のタラップを降りる私に日本の報道カメラが回った。
「スポンサーはどこですか?」「え?」。俳優という人間は、スポンサーがなければ旅行も出来ない生き物と思っているらしい。《飛行機の切符? 自分で買ったよ!》。啖呵は胸で呟いた。
「惠子さん、授賞式に来てくれますか?」
川端康成先生からパリへ電話を頂いたのは2週間ほど前。日本の作家がノーベル文学賞を受賞するのは初めてのことだった。満席ではあるけれど、厳かなしじまが満ちる会場で、男性はスモーキング、女性はローブ・デコルテ。私もこの日のために夫がプレゼントしてくれたオートクチュールのドレスを着ていた。
