2018年9月26日、広島東洋カープがリーグ3連覇を達成し、初のマツダスタジアムでのリーグ優勝決定ということで、広島の街は大フィーバーとなった。チームの観客動員もここ数年は200万人を突破し、いまは人気と実力を兼ね備えた、まさに第二次黄金時代。
カープの第二次黄金時代と歩調を合わせるかのように、2015年からスタートした「カープ手帳」こと『Carp SPIRITS』の二代目編集をしている筆者が、編集をするうえでの血となり肉となっている、カープを語るうえで個人的に欠かせないふたつのマンガを紹介したい。
カープのスタートについて楽しく読める作品
まずひとつが、中沢啓治『広島カープ誕生物語』。単行本描き下ろしで、発売は意外なことに90年代に入ってからの1994年。
中沢啓治といえば『はだしのゲン』があまりにも有名だけれど、こちら『広島カープ誕生物語』もカープファンにとっては有名どころ。しかし、1994年といえばまだネットもなかった時代。広島の知人によると、発売時から普通に書店なり図書館なりによく置かれていたし、いまも置かれているようであるが、東京では発売時に大きな書店に行っても置かれていることはほとんどなかったし、いまも大きな書店に行ってもほとんど置かれていないのは残念である。
この物語は、カープの球団誕生から1975年の初優勝までを、主人公の大のカープファン、大地進視点で進められている。大地進イコール読者、という視点である。
この手のフィクションとノンフィクションが絡み合うマンガは、虚実入り交ざりどこまでが事実かわかりづらいところもあるのだけれど、樽募金、ポール引っこ抜き事件など、概ね史実をもとに(大地進が行ったように描かれていることはあるが)描かれているようだ。
手塚治虫の『ブッダ』で仏教のことを先に知ってしまったために、あとになって仏教について混乱してしまうことがあるように、カープ黎明期を知るうえでは欠かせないマンガであるが、どこまでが事実なのかを判断することは難しいのかもしれない。ひとつわかることは、広島の人達はカープ愛あふれる人ばかりだということ。
主人公の大地進の働いている豆腐屋が、カープ絡みでことあるごとにタダで豆腐を配りまくったりしていたが、現実の世界でも優勝したとき居酒屋ではタダで料理が振る舞われたり、原価割れあたりまえの優勝セールが広島各地で行われたり、マンガの世界に現実が追いついているというか追い抜いてしまっていることもしばしば発生している。
カープのスタートはこうだったのだと楽しく読めるマンガであるし、とくに初代監督の広島県出身である石本秀一エピソードは、もはや伝説となっている広島商業監督時代の日本刀の刃渡り鍛錬に始まり、自ら選手獲得のため、資金獲得のために東奔西走するその姿は魅力にあふれており、彼こそが球界初のGMなのではと思わせる。石本秀一については、改めて一冊の本で功績をまとめられたような評伝がほしい。