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カープが王者のスタンスで描かれた貴重な作品

 そしてもうひとつが、江口寿史『すすめ!!パイレーツ』。江口寿史の初の連載作品であるこの『すすめ!!パイレーツ』は、1977年に「週刊少年ジャンプ」で連載開始。まだプロ野球が舞台のマンガといえば巨人が主役だった1970年代、架空のプロ野球球団「千葉パイレーツ」を舞台に繰り広げられるギャグマンガは、そのポップセンスによって、当時よく比較された鴨川つばめ『マカロニほうれん荘』とともに、マンガの新しい波を感じさせた。

江口寿史『すすめ!!パイレーツ』

 千葉パイレーツの選手には、選手兼コーチの犬井犬太郎、投手兼内野手の猿山さるぞう、エースの富士一平など、個性的な魅力あふれる面々がいて、その中にはヤクザの粳寅組の若頭、外野手の粳寅満太郎(うるとらまんたろう)もいた。
 
 全然カープが出てこないけれど、ここでやっとカープの出番。粳寅満太郎のライバルとして登場した選手が馬留丹星児(ばるたんせいじ)。投手。背番号88。満太郎の幼馴染であり、馬留丹組の若頭。当時は映画『仁義なき戦い』のヒットなどもあり、ヤクザといえば広島、というところもあってか、ヤクザの若頭の満太郎のライバルということならとカープに所属させたのだろうけれど、カープが1975年に初優勝をして、人気、知名度もあがってきたことも関係あるといえるだろう。江口寿史の描くカープのユニフォーム(とくにビジター)は、スラッとセンスよく描かれていて、すごくかっこよかった。

 犬井さんからは、パイレーツ誕生前のカープのことを「3強2弱1番外地」とネタにされたり、古葉竹識監督が取り乱す描写などもあるが、あくまでもいまはセ・リーグの王者というスタンスで描かれている。カープがこのように王者のスタンスで描かれたマンガはとても貴重なのではないかと思う(ギャグマンガではあるけど)。

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 1970年代後半から80年代前半といえばカープの黄金時代であるが、自分はまだ小学生で、カープのこともよくわかっていなかった頃、カープの選手でいち早く覚えたのが馬留丹星児であり、そのあとに山本浩二、衣笠祥雄、古葉竹識監督らをこのマンガで名前と顔を覚え、徐々にカープを知っていったという記憶はあるし、実は『すすめ!!パイレーツ』からカープを認識したという読者はけっこういたのではないかと思う。
 
 ところで、いまカープの背番号88といえば佐々岡真司コーチが実際に着けている背番号なのだけれど、ここはぜひとも馬留丹星児仕様のハイクオリティカープユニフォームとか発売されないものでしょうか。ただ、背中の文字のところを「BARUTAN」とするだけで、あの頃の『すすめ!!パイレーツ』といまのカープがクロスオーバーして、江口寿史とのコラボということで話題作となることは間違いないので、ぜひとも商品開発の検討をお願いしたい。

 もし、この2作品をまだ未読のかたがいたらぜひ読んでみてほしいし、読んだことのあるかたも改めて読んでいただければきっと新しい発見があるのではと思う。そして、最近は著作権の問題などもあるんだろうけれど、実在のプロ野球選手がバンバンと出てくるガツンとしたマンガが減ってきているので、そろそろそういったマンガも読んでみたくなってきている。

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