「ふっ」と相手が静かになるときが…
逮捕をして被疑者として取調べるのではなく、あくまでも参考人としての任意の事情聴取である。そのなかで、「潮目が変わる場面がある」と小池さんは言う。
「丁々発止のやり取りをしていても、『ふっ』と相手が静かになるときがあるんです。その流れの変化に気付かないといけない。それと同時に、向こうが黙り込んでしまうと間が空くでしょ。その沈黙が辛いからって言葉を挟んではいけない。相手はずっと考えているんです。この人(取調官)はどこまで知っとるんやろうかと。言い逃れできないのか、他に嘘を言い続ける術はないかとか、もう頭を回転させまくって不安で仕方がない。
この沈黙に取調官の方が堪えきれずに、『野球は、中日ファンか?』や『昨日は、よく寝れたか?』といった、返答ができる余計な言葉を挟むと、向こうは我に返って、シラフの状態に戻ってしまう。これを私は『被疑者が生き返る』と言っていました。こちらが理詰めでどんどん被疑者を追い込んでいくと、向こうは辻褄が合わなくなり、返答に窮してきて押し黙る。
もうあと一歩で自白するぞという緊張感に満ち溢れた空気が取調室に充満します。被疑者も息が吸えないほどの圧迫感を感じています。取調官の刑事も然りです。まさに張り詰めた空気です。やがて、落ちる時には空気が変わります。それなのに、不用意なイエスかノーの返答ができる言葉を投げかけた時は、空気が変わらず被疑者が生き返ってしまうのです」
自供をしてしまうと、その先には長期の懲役生活(現在は拘禁生活)、場合によっては死刑という極刑が待っているのだ。相手も「落ち」ないように、必死に抵抗する。
そうした攻防戦の末に、過去に自供に追い込んだ「潜在殺」の犯人との、取調室でのやり取りを小池さんは口にした。
●小池勝孝(こいけまさたか)
株式会社・総合社会環境調査「アクセルコップ」代表取締役社長。元愛知県警警察官。捜査第一課、機動捜査隊、国際捜査課、薬物銃器対策課、所轄署刑事課長等を経て、警察署長を退官。フィリピン国内での放火殺人被疑者の身柄確保、取調べ。バスジャック犯人確保。死刑求刑事件等多数の凶悪事件捜査に従事。
