愛知県警捜査一課で11年にわたって、20件以上の殺人事件被疑者取調べをした元捜査員が語る、殺人事件被疑者の取調べとは。

「あるとき、愛知県内に住む主婦のA子さんが行方不明だという話が、県外の警察から持ち込まれました。彼女には娘が2人いるのですが、彼女らは愛知県外で暮らしているため、実家にはA子さんと夫のB男の2人が住んでいるとのこと。そんな状況で、娘が居住地の警察に、『母親が家を出て連絡が取れない』と、家出人捜索願を出したのです」

 愛知県警OBの小池勝孝さん(65)は、自身が取調べを担当した、「潜在殺」事件について語り始めた。行方のわからなくなった妻は当時50代、家に残っている夫は60代だという。

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愛知県警OBの小池勝孝さんに話を聞いたノンフィクションライター小野一光氏

追求の鍵は被疑者の「嘘」

「両親は愛知県民ですからね、愛知県警が参考人として夫に話を聞くことになったわけです。当然ながら旦那は、『妻は勝手に家を出て行った。どこに行ったかは知らない』と、しらばっくれていました。

 夫はいかにも農家のお父さんといった朴訥な雰囲気の人です。一方で奥さんはそれこそ女優かっていうくらい派手な装いで、見た目も10歳くらいは若く見えるタイプ。結果から話しておくと、この奥さんが浮気をしていたんですね。そのことを知った旦那が、前から計画を立てたうえで彼女を殺害。遺体を山中に埋めたというものでした」

 事前に、夫のB男による犯行だろうとの見立てはされており、彼が否認するだろうことも予想済みだった。

「家出人捜索願が出た段階で、所轄署がまず自宅を調べたいということで、ガサ状(捜索差押令状)を持って訪ねているわけです。その際に家族のことや、奥さんがどういう状況だったか、最後の接触はいつで、どういう風だったかということを、さらっと夫から聴いています。

 ここで相手が嘘をついてくれると、一番いいんですよ。我々が虚偽供述とわかる明白な嘘です。『潜在殺』では、犯行日時や場所、殺害方法等がわからない。現場鑑識資料、防犯カメラ画像、Nシステムなどの現場存在証拠等が無いわけです」

 原因や動機などで被疑者になり得る存在だとしても、指紋やDNA、目撃供述などが一切ないのが「潜在殺」の特徴だという。