「見込み捜査でいきなり犯人扱いはできません。しかし、こちらが嘘と断定できる犯行の核心部分についての虚偽供述を得ていれば、自信をもって取調べに臨めます。嘘をついていたことがわかると、そこを厳しく追及することができますから」
B男の反応を観察しながら、彼の性格を見極め
いざ事情聴取が始まると、予想通りB男はA子さんの行方について、知らないということで通そうとする。小池さんはB男の反応を観察しながら、彼の性格を見極めた。
「そんなに多弁ではないんですが、奥さんが悪妻だったという話はするんです。これは正直に言っているんだろうと思いました。奥さんを悪く言えば、自分が疑われるだろうことは、わかっているはずですからね。だからこそ、彼の奥さんへの憎しみは割と純朴というか、朴訥なものだということが伝わってきました。そこで私は、『それはとっても大変だったよな』という聞き方をするわけです。ただし……」
ここで小池さんは注意が必要だと指摘する。
「私はよく言うんです。『相手の言い分の全てを、向こうから見える机上での取調べメモに取るなよ』と。聴取相手は、こちらのペンが動く話と、そうでない話が何であるかを見ているわけです。そうすると、話に合わせてペンが動くことで、自分のこの言い分は通っとるなと思われてしまう。
ほかにも、警察は知らないんだ、といった風に解釈されたりすることもある。若い刑事が陥りがちなのですが、『取調べ』のはずが、知らず知らずのうちに、『聞き取り』になっていたりするんですね。見込み捜査や予断を抱くことには気を付けるべきですが、明確な虚偽供述に耳を傾け過ぎることは、相手に捜査側の手の内を知らせる可能性があるとの認識も必要です」
目の前の取調官が興味を示す内容に気付いた被疑者が、自分にとって有利になるように、供述内容を変えてしまいかねないということだ。
そうした点に留意しながら、B男に同情の言葉をかけ続けた小池さんは、やがて彼の娘たちのことに話題を移す。