映像の世界からキャリアを始めた、俳優の水野美紀さん。自身にとっては大きな転換点となった演劇との出会いと、その現状における課題について語りました。
◆◆◆
映像から演劇の世界へ
もともと小学6年生のときに『ガラスの仮面』を読み、主人公の北島マヤに憧れたのが、この世界に入るきっかけでした。じき、いわゆる“清純派”として様々な役をいただくようになり、なかでも1997年、22歳の時に出演した『踊る大捜査線』のインパクトはすごかった。未だに役名の「雪乃さん」と呼ばれることがあるほど。この秋には劇場版第5作『踊る大捜査線N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』が公開されます。これだけ息の長い作品に携われたことは私の財産です。
20代の後半には連ドラの主演も務めて、傍目には順調にキャリアを重ねているように見えたはずです。一方で自分の俳優としてのイメージは硬直化していき、役柄の幅も狭くなっていく。徐々に、どこか人生が満ち足りていないようなモヤモヤを抱えるようになりました。「次はこれにチャレンジしよう」という気持ちが持てなくなり、カメラの前に立つのも怖い。そんな時期に出会ったのが、演劇でした。
映像の世界で自分が培ってきた経験が、まったく通用しない。日々顔を合わせ、呼吸を合わせ、みんなで一つの舞台を作り上げていく。そしてお客さんと同じ空間で、同じ瞬間を分かち合い、感情を共有する。すべてが刺激的でした。もっと舞台に立ちたい、突き詰めたい。気付けば演劇の虜になっていました。ここ20年ほどは、たくさんの映像作品に出演させていただく一方で、舞台に軸足を置き、自分で演劇ユニット「プロペラ犬」も主宰して作劇も行ってきました。
どっぷり浸かって分かったのは、日本は若く豊かな才能の宝庫だということ。ダンスや殺陣が上手なパフォーマーが本当に多いし、0から1を生み出せるクリエイターも数えきれない。
それなのに、音楽や映画、ゲームや漫画のようなほかのエンタメとくらべ、演劇は政府の助成金の枠も少ないし、いわばマイナーに留まっている。観劇人口は増えないし、演劇だけで豊かな生活を送れる人はまずいません。基本的に稽古期間中はギャラが発生しないので、スタッフは仕事をいくつも掛け持ち、劇場で人気を博す俳優ですらアルバイトで生活費を稼いでいる。輝かしい才能は年を追うごとに削られ、消費され、活かされないまま消えていってしまう。能力に見合った対価は支払われず、夢を持つことすら許されない。それが日本の演劇界の厳しい現実です。
※約2000字の全文は、文藝春秋9月号と、文藝春秋の電子版『文藝春秋PLUS』に掲載されています(水野美紀「ブロードウェイへの総力戦」)。
出典元
【文藝春秋 目次】芥川賞発表 受賞作全文掲載 小砂川チト「ゾンビ回収婦」/「高市総理よ、日本を壊すな」細川護熙/がん15部位 早期発見ガイド
2026年9月号
2026年8月10日 発売
1480円(税込)
