俳優の山村紅葉さんは、今年6月に初の小説『祇園の秘密 血のすり替え』を出版し、小説家としてデビューしました。本格的な創作を経て、母である作家・山村美紗の影響を振り返ります。
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華やかな母と不器用な私
私の作家デビュー作「祇園の秘密 血のすり替え」の発売日、ドキドキしながら書店に行った。そして並んでいる本を見つけて、
「本当に発売されている。自費出版詐欺ではなかったんだ」とまず安堵していると、京都の友人や知人から次々に連絡が入った。
「もみちゃんのサイン色紙と一緒に、本が一コーナー積み上げられているよ」
「サイン会の参加券が売り切れている」
そんな知らせに喜びと同時に、不思議な思いで胸がいっぱいになった。
「こんな日が来るとは……」
小学校の頃から書くのは苦手だった。いや苦手だと思い込まされていたのかも知れない。詩や読書感想文のコンクールで入賞しても母に、
「下手な文章ね。発想は奇抜なのに説得力がない。だからいつも特賞に選ばれないのよ」と貶され、表彰式に来てくれたことは一度もなかった。
明るく社交的で太陽のように華やかな母とは対照的に、引っ込み思案で不器用な私に、母は「紅葉は拾ってきた子だから」といつも言っていた。
「鴨川を流れてきたので、四条大橋の下で拾った」とか。しまいにはメコン川まで登場したので、さすがに嘘だろうと思っていたが、大学の時タイを旅行していて、ホテルの部屋に忘れ物を取りに帰り、客室係の女性とぶつかりかけて見たら、鏡に映った自分かと思うくらいそっくりだった。「やっぱりメコン川だったのだ」。
しかもその後、結婚を控えたブライダルチェックの血液検査で、母子手帳に記され、ずっと信じていたO型ではなく、A型であることが判明したのである。
「やっぱり」。いつか本当の母を捜しにタイへ行こうと真剣に思っていた。
ところが小説を書きはじめて、パソコンを前にはアイディアが浮かばなかったのに、母と同じ、原稿用紙に手書きにしてから、スイスイとペンが進み、編集者の方から、
「書くスピードが驚くほど早いのと分かりやすい文章は美紗先生に似ていますね」と言われて嬉しく、
「もしかして?」と……。
※約1500字の全文は、文藝春秋9月号と、文藝春秋の電子版『文藝春秋PLUS』に掲載されています(山村紅葉「作家デビューと母・山村美紗」)。
出典元
【文藝春秋 目次】芥川賞発表 受賞作全文掲載 小砂川チト「ゾンビ回収婦」/「高市総理よ、日本を壊すな」細川護熙/がん15部位 早期発見ガイド
2026年9月号
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