「おいしすぎるそばは2回は食べたくならない」
石田 シリーズものというのは、おそばと同じなんです。おいしすぎると2回目も行きたくなくなるじゃないですか。そこそこおいしい、ちょうどいいおいしさというのがシリーズものは一番いい。だから池袋には、これぞという大きなテーマは入れないと、かねて決めています。
――それは池波正太郎さんに学んだとうかがったことがあります。
石田 池波さんは職人肌なので仕上げがものすごく良い。腕がいいんですよ。『鬼平犯科帳』も『仕掛け人・藤枝梅安』も、物語がくどくないからつるつる読めるんです。ラーメン二郎みたいなものは毎日食べられないですよね。でもおいしいおそばは毎日食べられる。おもしろかった、ちょっと物足りない、でもまた食べたいな、くらいのものがシリーズとしては一番いい。
――私が石田さんの担当編集を引き継ぐ際、先輩から「石田さんが手書きで書いた作家人生の設計図がある」と聞かされていました。緑色の万年筆で、この先10年で書くものをリストアップされていた。そこに『4TEEN』、『娼年』、『波のうえの魔術師』などがすでに書かれていた。
石田 ああ、懐かしいな。デビューした直後にいろいろ出してって言われて書いたものです。でも僕としては、超遅咲きなんですよ。7歳から30年分の蓄積がありましたから、それを書き出す順番を並べていただけで、頭の中ではすでに完成していたんです。
文章のテンポが良ければ最後まで読める
石田 小説のおもしろさで一番大事なのは、実はいい文章を書くことでも、いいことを書くことでもなく、いいリズムとテンポで書くことなんです。内容がいまひとつでも、テンポさえ良ければ必ず最後まで読めるので。
――これは本当に大事なことで、プロの作家の人たちは、どう書かれているかを最も重視しますよね。
石田 そうなんです。文章のリズムがいいかどうかというのが、異なるジャンル、異なる内容の作品を一つの尺度で評価するときの唯一の共通基準になるんですよ。
――具体的に、リズムを整えるというのはどういうことでしょうか。
石田 自分の心が楽しいリズムというのがあるんです。小学生のときに夏休みの宿題で詩を書く授業があったのですが、自転車に乗りながら、ペダルを踏むリズムに合わせて頭の中で作った詩を書いて提出したら、賞をもらいました。落語の立川談志さんも言っていましたが、しゃべりのリズムができるようになったらプロだと。文章のリズムも同じで、句点で切らずに読点でリズムを置いて話す、そういう技を文章の中でも意識的に使うことが大事なんです。