買い取り屋の小説はまだ誰も書いていない
――最新号の『オール讀物2026年9・10月号』では、池袋周辺の買い取り屋を題材にした、池袋ウエストゲートパークシリーズの新作が掲載されています。
石田 みんな不思議だと思いませんか。なんで買い取り屋ってこんなに多いんだろうって。調べてみたら池袋周辺に200軒あるんです。タピオカミルクティー屋みたいに突然出てくるのはおかしいですよね。
ブランド品が値上がりしている今、日本が豊かだった頃に買ったものを安く買い取り、相場の半分で売ればめちゃくちゃ儲かる。成長した経済大国が最後にする商売が買い取り屋なんです。日本の資本主義の断末魔を象徴するビジネスとも言えます。こういうことを書いている日本の作家はまだ誰もいませんから、この内容をサクッと書くのは楽しいですよ。
僕にとってIWGPを書くのは、時代の切片標本を作っているという感覚なんです。気象庁の人が毎年桜がいつ咲くかを見るのと同じで、ああ冬になったな、じゃあ冬の池袋の話を書いておくかというくらいの感じで続いている。今のドンピシャなもの、誰も書いていないけど誰もが気づいておかしいと思っているものを、今のうちにさっと書いておくんですね。
「小説家のピークは20年」――作家人生の設計図
石田 最近読んで面白かった本に、ハーバード大学教授のアーサー・C・ブルックスが書いた『人生後半の戦略書』という本があって、色々な仕事のピークの年齢が書いてあります。詩人は感性が必要なのでピークが15年と短い。小説家のピークは20年。数学者が21.7年。一番長いのが歴史学者で40年なんだそうです。
――小説家20年説というのは、体感としてもそのとおりですか。
石田 ほぼ間違いないです。僕はデビューが36~7歳なので、50代半ばくらいでピークを迎えたかなという感覚はありますね。でもそれはほかの作家もみんなそうですよ。黒澤明のピークだって、『七人の侍』や『用心棒』、あの辺りは40代後半から50代です。映画監督も15年から20年がピークなんだなと思います。
――そのピークの20年の間に、書き方が変わったなと感じた瞬間はありましたか。
石田 ミステリーではないもの、恋愛小説のような一般小説を書くようになってから変わったと感じました。最初の5年くらいは、本を1冊書くたびにどんどん自分がうまくなっていくのが分かりましたね。『娼年』を書いたのもその頃で、楽しい自分の趣味の本として書いたら、初めての直木賞候補に入ったので、ああ、こういう路線で大丈夫だったんだと自分でびっくりしました。

