わずか20万円ほどで売り飛ばされ、売春宿で働かされる――こうした耳を疑うような人身売買や売春産業が、現代にはまだ残っている。国際労働機関の2021年世界推計によると、現代奴隷制の被害者は5000万人にものぼるとされる。
例えば、借金と引き換えに子どもなどを担保に入れる「債務奴隷制」の被害者として、15歳で両親に売られたタイの少女・スィリはその1人だ。同志社大学名誉教授・布留川正博による新著『世界をつくった奴隷の歴史』(筑摩書房)から一部抜粋してお届けする。
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一晩で15人の相手をさせられた少女、スィリ
スィリが目覚めたのは昼近くであった。彼女は性器に痛みを感じて、前の晩、15人の男とセックスしたことを思い出した。スィリは15歳で、1年前、両親に売られてタイ北部のある街の売春宿に来た。これには周旋屋の女が絡んでいる。
周旋屋の女はスィリの家族に近づき、割のいい仕事があるともちかけた。両親はその話にのって、スィリの代金として5万バーツ(約24万円)を受けとった。この金は娘が働いて返すこと、債務の完済まで娘は暇をもらえないこと、家族に仕送りもできないことが契約書には明記されていた。
この債務はまたたくまに膨れあがったという。スィリは周旋屋から売春宿に10万バーツで売られ、そこで強姦され、殴られたあとで、売春宿に返済すべき債務が20万バーツであると知らされた。これ以外に部屋代や飲食代、薬代などが加算された。これでは客がスィリを400バーツ(約2000円)で買ったとしても、借金返済の見込みはなかった。
この売春宿には25人ほどの少女や女性が働いていたが、こうした債務奴隷制によって彼女たちは、売春宿経営者とヒモの完全な支配下におかれていた。スィリは売春宿に連れて来られた当初は逃げだそうとしたが、金のないスィリは路頭に迷い、すぐに捕まって、連れ戻され、殴られ、強姦された。時が経つうちに逃げだそうという気持ちはなくなった。
売春宿での生活が日常化しつつあるなかで、彼女は自身を悪人だと思い込むようになった。
