世界で数千万人が犠牲になっているとされる「強制結婚」。被害者のほとんどは少女を含む女性たちだ。インドでは違法であることを知りながら、賄賂を用意してまで5歳女児を結婚させようとするケースもあるという。
いまだ完全にはなくならない児童婚の衝撃的な事例を、同志社大学名誉教授・布留川正博による新著『世界をつくった奴隷の歴史』(筑摩書房)から一部抜粋してお届けする。
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深夜に「違法の結婚式」5歳の少女が結婚させられ……
ILOの報告によれば、2021年には任意の1日に推計2200万人が強制結婚の状態で生活していた。強制結婚は、微妙で複雑な問題を孕んでおり、家父長制の慣行と密接に関係している。
男性や少年が結婚を強制されることもあるが、被害者の圧倒的多数が女性や少女である。強制結婚のうち約3分の2がアジア太平洋地域で行われており、それに続くのがアフリカである。これらの地域ではいまだに家父長制の暗い影が色濃く残存しているのである。しかも強制結婚の数は、さまざまな努力にもかかわらず増加傾向にある。
強制結婚の事例の報告は、強制労働のそれと比べると極端に少ない。ここでは『ナショナル・ジオグラフィック 日本版』(2011年6月)に掲載されたシンシア・ゴーニー「幼き花嫁たち――伝統の陰に隠された児童婚の現実」に依拠して、その実態に迫りたい。
インド北部ラージャスターン州のある家族の3人の少女が深夜の結婚式に臨むために準備をしていた。花嫁のうち15歳と13歳になるラダとゴラの姉妹は、これから起きることをある程度理解していた。しかし、ふたりの姪にあたるラジャニはまだ5歳で、かわいいチョウの模様が入ったピンクのTシャツを着ていた。
深夜に結婚式を行うのは、それが違法だからだ。インドの法律では女性は18歳になるまで結婚はできない。したがって、姉妹の父親は結婚式の最中に警官が踏み込んできたときのために賄賂まで準備していた。
ふたりの姉妹は、すでに初潮をむかえていたので、法律には違反していたとしても、近所の人たちはこれを隠ぺいし、また一族の名誉のために大目に見ていた。しかし、ふたりの姉妹の結婚式にまぎれて5歳のラジャニまで結婚させようとしていたのはどうしたことか。
夫になるのは10歳の男の子であった。処女であることが結婚の大前提である共同体では家長が責任をもって結婚相手を選んでくるのである。インドでは親同士が話しあって子どもの結婚を決めるのが当然のことなのである(ラジャニの結婚は、祖父が決めたのであるが)。
