三島由紀夫に言い返した言葉

 2019年9月に脳梗塞で入院して以来、美輪さんの芸能活動は大きく制限されるようになったが、担当してからそれまでの間の舞台やコンサートに可能な限り足を運んだ。美輪さんは終演後、楽屋に訪れた関係者一人一人に対して抱擁を交わしていた。あのとき、美輪さんの腕から伝わった体温は、まだ私の体の中に残っているように感じる。

若き日の美輪氏(1957年) Ⓒ文藝春秋

 シンガー・ソングライターで俳優、舞台演出家だった美輪さんは、「美しさとは何か」「芸術とは何か」を問い続けた人だった。寺山修司や三島由紀夫が、美輪さんのために役を当て書きした。主演舞台では演出、美術、衣装、音楽、振り付けまで自ら担った。

 美輪さんにとって、美しさは飾りではなく、芸術は雰囲気ではなかった。ピアフの「愛の讃歌」を歌う時もそうだった。日本では越路吹雪が歌った岩谷時子の訳による「あなたの燃える手で あたしを抱きしめて」で始まる日本語版が広く知られている。だが美輪さんは、「高く碧い空が 落ちてきたとしても」で始まる、自身の訳で歌い続けた。

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 その理由について美輪さんは、「フランス語の原詞はああいう内容ではないもの。作品を尊重するなら原典に忠実に歌わなければいけませんから」と語っていた。美しさを大切にする人であると同時に、表現の根本に敬意をはらい、決して粗末にしない人だった。

 多数派の意見に流されず、おかしいことはおかしいと、堂々と口にした人でもあった。人生相談の回答においても、お金や権力を持つ側に厳しく、学歴や肩書に惑わされない姿勢が明確だった。

「それは、お若い頃からですか」

 私が尋ねると、「そうね」と当然のように返ってきた。その流れで、三島由紀夫との思い出話に及んだことも。出会ったばかりの頃、美輪さんは三島から「君は田舎者のくせに、東京をなめてかかっている」などと、地方出身者であることを馬鹿にされたのだという。

三島由紀夫 ©文藝春秋

「何を言っているのですか? 長崎は400年前から国際都市です。その頃の東京に何がありました。ぺんぺん草が生えていただけだったでしょう? 太田道灌がやっとボロボロの田舎の城を築いて、徳川の駿河の田舎の狸親父のおかげで少し良くなっただけで、そちらの方がよっぽど関東の田舎者でしょうよ」

 そう言い返したのだと、美輪さんは笑っていた。

 痛快な言い回し。権威や「中心」とされるものを、そのまま受け入れない。常々、「政治家をはじめ、一見は立派な人ほど、本当に立派な人は少ない」とも語っていた。

※約7000字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と『文藝春秋』2026年9月号に掲載されています(後藤洋平「愛してるわよ』美輪明宏さんは私に言った」)。
・「
初めての今日を生きる」という哲学
・常々口にした「正負の法則」

文藝春秋

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「愛してるわよ」美輪明宏さんは私に言った

出典元

文藝春秋

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