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 後日来店する人も多い。時幸堂では時計が売れたことがある。制服・ランドセル販売などの「辻兵(つじひょう)」は、「男子学生服を着る」という「指示」を出したことがあるが、「中学に進学する時に制服を買いに来てくれました」と加賀谷敏之店長(四十八歳)は微笑む。

 一九一八年建造で和洋折衷の店舗が国の登録有形文化財になっている菓子店「高砂堂」経営の塚本清さん(六十八歳)は「敷居が高いというか、入りにくい印象があるようですが、スゴロクで一度来たら、何度も来てくれます」と語る。「ひらのや書店」の平野左近さん(三十六歳)は「名前を覚えてくれるだけでも、将来につながる」と言う。

 参加者の側も「発見」を求めている。「三回目の参加です。初回に入ったパン屋では毎週買うようになりました。ショッピングモールの閉鎖で移転先が分からなくなっていた喫茶店も、スゴロクでビルの二階にあると知り、また通おうと思っています」(三十七歳の夫妻)、「スゴロクで初めて訪れた美容院にはしばらく通いました」(四十三歳女性)などという声が続々出てくる。

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「この遊びは意外に深いですよ」と大町商店街振興組合理事長で、地ビール製造の「あくら」オーナー、高堂裕さん(六十七歳)は唸る。

「世の中には売る人と買う人がいます。それをつなぐのが見る人、遊ぶ人で、スゴロクがその役割を果たしています。例えばウインドーショッピング。見るだけの人、遊ぶだけの人が大勢いるから売れるんです。それに、スゴロクは何万枚ものチラシよりよっぽど効果がありますよ。何十人かしか訪れないのに馴染みになってくれる人がいるのですから。自然な出会いで、店の雰囲気を感じ取ってもらえるからでしょうか。地味な催しですが、商いの原点を考えさせられます」

竿燈で使う一本歯の下駄を履くという指示も

 それだけではない。通町は藩政時代から朝市が許された、市内で最も古い商店街だ。老舗が多いので文化を体験する機会にもなっている。「はきもの登美屋」では秋田伝統の祭、竿燈(かんとう)で履く一本歯の下駄で立つという「指示」を出している。

 一八八三年創業の菓子店「榮太楼」大町店の佐藤里美店長(三十九歳)は「最近はあんこを食べず嫌いの子が多いのですが、スゴロクで訪れる人の休憩スペースに饅頭を出しておくと、知らず知らずに食べておいしいと言われます。和菓子の魅力を知るきっかけになれば」と願う。

 横へ広がる効果もある。通町商店街振興組合の専務で器屋「あおい」の社長、青井智さん(四十九歳)は「スゴロクでつながりができたので夏の打ち水やスタンプラリーは大町商店街などとも一緒にやるようになりました。こうした広がりが街の新しい刺激になっています」と語る。

 商店街は全国どこも厳しい。「スゴロク」をもってしても、劇的な経営改善にはつながらないだろう。だが、何らかの可能性を見せてくれる。不思議なイベントである。