イラストレーション:溝川なつみ

 エイサーの演舞が終わると、仲宗根章人さん(二十一歳)は芝生にばったり倒れ込んだ。肩で息する以外は、会話にならない。

 九月十日夜、沖縄県うるま市の平安座(へんざ)で開かれたエイサー祭。仲宗根さんは隣の沖縄市から招かれた越来(ごえく)青年会の会長として、約三十人のメンバーを率いて舞いを披露した。

 エイサーは沖縄の旧盆(八月下旬~九月上旬)の伝統行事だ。各地区の青年会が、三線の地謡に合わせて太鼓を打ち鳴らし、手踊りの隊列を従えて練り歩く。五百年以上の歴史があるとされており、沖縄市など同県中部が本場だ。

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 旧盆以外にもイベントで踊ることが多く、沖縄の夏を彩る風物詩となっている。沖縄市では一九五六年から毎夏「沖縄全島エイサーまつり」を開催しており、二〇〇七年には「エイサーのまち宣言」を行った。

 越来青年会は腕を上げたまま舞う勇壮な踊りで知られていて、グテー(島言葉で「力強い」という意味)エイサーと呼ばれている。その分、体力を消耗するので、暑い盛りには息が上がる。本業が大工の仲宗根さんは、職場から駆け付けてすぐに踊ったせいか、舞っているうちに脱水症状を起こし、体のあちこちが痙攣した。だが隊列は一糸乱れず、観客からひと際大きな拍手が起きた。

エイサーを踊る越来青年会(9月10日、うるま市)

「夏になるとエイサーが踊りたくなる」。沖縄ではそう話す若者が多い。全国の伝統芸能は廃れる一方なのに、沖縄のエイサーは多くの若者をとりこにしているのだ。しかも、舞いの中心になっているのは全国でじり貧の状態にある青年団だ。沖縄県では青年団のことを「青年会」と言い、他県とは比較にならないほど豊富な活動量を誇っている。

 一五年十月に行われた国勢調査で、沖縄県の過去五年の人口増加率は全国トップの三・〇%だった。中でも人口十三万九千三百十五人の沖縄市は、この五年間に県内市町村で最多の九千六十六人増えた。

 他県からの移住者が押し上げているわけではない。県が行ったアンケート調査では移住から三年以内で帰ってしまう傾向があると分かった。「豊かな自然をイメージして来る人が多いようですが、実際に住むと望むような仕事がなかったり、人間関係に悩んだりするのです」と県企画調整課、島袋秀樹主幹が解説する。

 市域の三分の一が米軍基地で、リゾートとはほど遠い同市では〇七年以降、転出者が転入者を上回る「社会減」が基調になった。就労環境はいいとは言えないからだ。全国で最も失業率の高い同県でも、県内十一市のうち悪い方から二番目だった(一〇年の国勢調査による分析)。それでも沖縄市で住み続けたいか、戻りたいという若者が多く、彼らが社会減以上に子を産むので人口が増える。同市の合計特殊出生率(〇八~一二年)は一・九七と、全国の市町村で三十番目に高かった。

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