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連載地方は消滅しない

地方は消滅しない――沖縄県沖縄市の場合

エイサーがあるから故郷に帰ろう

2016/10/25

source : 文藝春秋 2016年11月号

genre : ニュース, 社会, 経済

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全員が青年会員の会社ができた

 同市の松本青年会長、吉田翔さん(二十三歳)も十九歳の時に愛知県の自動車工場へ働きに出た。ところが「エイサーの練習が始まる夏になると血が騒いで」帰って来た。

 戻った後は、青年会の先輩の紹介で建設会社に入った。会社はエイサーに理解があり、イベントなどの時には優先して休みをくれる。皆で見に来てくれることもある。

 松本青年会のエイサーは女性のしなやかな手踊りが人気で、ファンが急増している。「青年会に入れてほしい」と他県から若者が来るほどだ。だが、吉田さんは「極端なことを言えば、仲間がいればエイサーを踊らなくてもいい」と話す。もちろんエイサーは大好きだ。しかしそれ以上に「家族同然の仲間と過ごす時間を大切にしたい。高齢者の助力にもなりたい」と考えている。

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 吉田さんも宮城さんもエイサーを入口にして、仲間や地域の人々と付き合っていく楽しさを知った。青年会を通じた地域とのつながりが、彼らを沖縄に呼び戻したのだ。

青年会員を採用している山内盛斗社長

 ただ、いくら地元で暮らしたいと思っても、仕事がなければ無理だ。沖縄市には青年会の出身者が、地元に残りたい青年会員を採用している会社がある。山里青年会のOB、山内盛斗さん(二十八歳)が経営している山内工業はその一つだ。山内さんは中学卒業後、左官として就職し、二十三歳で独立した。十一人の従業員は全員が現役の青年会員かOBである。

 山内さんは山里地区が大好きで、一度も県外に出たことがない。「なぜと聞かれても答えられません。とにかく地元が好きなのです。だから地元の人を採用したい」と話す。社員が青年会出身者ばかりになったのは「友達を入れたい」「後輩が加えてほしいと言っている」と仲間が仲間を呼んだからだ。「一緒に活動してきたので人柄が分かります。仕事を転々としてきた仲間も、うちでは定着できています」と語る。

 山里自治会長、喜友名(きゆな)秀樹さん(三十五歳)は「山里青年会は全員が兄弟のような存在なのです」と説明する。喜友名さんは同青年会の元会長だ。青年会活動がきっかけになって、一二年に自治会長に就任した。今では市の自治会長協議会の会長も務めている。

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