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連載地方は消滅しない

愛知県一宮市「喫茶店のモーニング」が生き残る理由

愛知県一宮市「喫茶店のモーニング」が生き残る理由

地方は消滅しない――愛知県一宮市

2018/07/17
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イラスト:溝川なつみ

「コーヒー」と注文して何が出てくるか。それが面白くて、10軒ほど回った。どれとして同じ店はない。

 愛知県一宮市で、地元店主が営む喫茶店では、コーヒーにいろんな「おまけ」がついてくる。

 午前中はモーニングサービス。食パンとゆで卵が伝統的だが、サラダ、茶碗蒸し、そば、焼きそば、ゼリー、ヨーグルト、ケーキといった「副菜」をつける店もある。

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 食パンは、バターやジャムを塗ったトーストだけでなく、愛知県内で好まれる小倉あんを載せたトーストも選べる。サンドイッチ、ホットドッグ、フレンチトーストなどに替えた店主もいる。お握りを選択できる店、炊き込みご飯やお好み焼きを出す店もある。

 午後にはケーキ、クッキー、ゼリー、フルーツなどがついてくるが、「一日中モーニング」と名付けて、夕方まで出す店も少なくない。

 これで300〜400円程度のコーヒー代だけなのだから驚きである。

果物が山盛りでたったの360円

 今回訪問した中で圧巻だったのは「絆」だ。

 午前8時の開店から午後4時の閉店まで、終日モーニングが食べられる。皿にトースト、ゆで卵、野菜サラダ、果物がいっぱいに盛りつけられて、たったの360円だ。

 店主の永尾秀敏さん(57)は青果店も経営しており、果物の味には自信を持っている。取材に訪れた日はスイカ、パイナップル、そしてバナナが丸ごと1本ついていた。

「うちは4月からスイカを出しています。どの果物も野菜も旬の産地から仕入れるので、食べてもらえば違いが分かります」と言い切る。

 この日は加えて、4本入りのバナナを一袋、土産に出した。

「その日の気分で、お土産をつけています。開店3年目。まだ自分の名前でお客さんを呼べません。来てくれる皆さんへの感謝の気持ちです」。他にも店内で野菜や果物を格安で販売している。

360円で旬の野菜や果物がふんだん。バナナの土産も(喫茶 絆)

「一日中モーニング」はもうかるのか?

 これで、もうかるのか。

「市場から直に仕入れていますし、毎日100人ほどのお客さんに来ていただいているので、赤字ではありません。私は10代の頃、喫茶店で働いた経験があり、店を持つのが夢でした。だからお客さんには満足してもらいたいのです」と意気込む。

 1980年創業の「ピットイン」も「一日中モーニング」で有名だ。「84歳」という尾谷(おたに)豊子さんが経営しており、「平均年齢75歳ぐらい」(尾谷さん)の女性従業員3人と切り盛りしている。

 トーストにマカロニサラダ、茶碗蒸し、バナナ2切れ、リンゴのスライスがついて360円。昆布茶が締め括りに出てくるが、これを出す店は最近少なくなった。

 開店は午前5時だ。「高齢者でいっぱいになります。日によっては午前2時頃から待っている人もいます。私の起床時間は午後11時半です」。淡々と語る尾谷さんだが、長年酷使した指が曲がらなくなり、何度も手術をした。

「服のボタンも満足に合わせられません。店をやめようと思ったこともあります。でも、『また行きたい』というお客さんの声を聞いたら、痛みなんか忘れてしまいます」。気迫の経営である。