表参道にある「パンとエスプレッソと」という一風変わった店名のベーカリーをご存知だろうか? 実は「#パンとエスプレッソと」というハッシュタグは、Instagramで5万9千回以上も投稿されている。日本人の誰もが知るベーカリーチェーンで1~2万回台、食べログ最上位の店で数千回レベルだから、パン屋の店名としては、突出して多い。
一時は、人手に渡す契約書にサインしたほど売れていなかったこの店が、SNSの時代に、毎日行列ができる人気店に急上昇したのはなぜなのだろう?
もともと不動産会社の不採算部門だった
「パンとエスプレッソと」は、経営者である山本拓三さんが、パン職人である櫻井正二さんと出会ったことから生まれた。最初に会ったのは、都内の大手百貨店にあったベーカリーの店長と、その経営母体である不動産会社の子会社役員として。山本さんは、不採算部門だったこのベーカリーを閉店するよう迫っていたのだ。
「でも、味もわからずに閉店しろというのもよくないと思い、行って食べてみたら、すごくおいしかった」
結局、経営は上向かず、ベーカリーは閉店、2000万円かけてリースした製パン用機材が残された。返却するならリース料を一括返済する必要があるが、借りたままなら月割で払える。そこで、空いていたオフィスの1階を利用、山本さんは、サイドビジネスとしてパン屋をはじめた。ミイラ取りがミイラになった瞬間である。パン自体はおいしいのだから、パンと顧客層のマッチングをうまくすればもっと流行るはずだという思いもあった。
それが、2009年オープンの、櫻井さんをパン職人として迎えた「パンとエスプレッソと」のはじまりである。ユニークな店名は、有名デザイナー菊地敦己氏の発案。パッケージデザインがADC賞を受賞するなど、当時のパン業界では斬新さが際立っていた。
山本さんのいた不動産会社では、お金をかけたアートディレクションは当たり前のこと。また、デザイン性の高い内装や、櫻井シェフの作るうつくしいパンの形など、当初から「見た目にこだわる」ことで一貫していた。それが、表参道という土地柄もあり、感度の高い若者を引きつけ、のちのSNSでのブレークにつながる。