昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2018/05/13

お店を救った「鉄板フレンチトースト」

 だが、最初の2年は赤字つづき。経営をあきらめて売却することにし、契約書も交わす段取りになっていたところに、東日本大震災が起き、頓挫。

「やるしかないなと、逆に腹をくくりました」

鉄板フレンチトースト

 いまや、「パンとエスプレッソと」を代表する商品になっているフレンチトースト。特に、限定30食(週末40食)の「鉄板フレンチトースト」が販売開始される15時には毎日行列ができる。これも最初から売れていたわけではない。当初は夕方からバル営業を行うなどメニュー数が多く、埋没していた。ところが、経営合理化のためメニューを減らしたところ浮上してきたのだ。

「すごくおいしいし、ぷくっとふくらんでいる見た目もいいので、フレンチトースト一本にしたら売れるようになるんじゃない? って」

 折から、原宿、表参道界隈にパンケーキブームが訪れていた。パンケーキの次に流行ると目されたのが、「パンとエスプレッソと」のフレンチトーストだったのだ。FacebookやTwitterでじわじわ広がっていたところ、TVでも取り上げられ、人気が爆発。

 たしかに、鉄板フレンチトーストは「インスタ映え」する要素に満ち満ちている。注文後にパン屋の業務用オーブンで焼き上げられ、あつあつが鉄板にのって登場。まるごと一本のイタリア産有機ハチミツもお供について、好きなだけかけることができる。卵とミルクがしみてぷっくりとふくらんだパンに、かけまわしたハチミツはてらてらと輝き、鉄板によってあつあつぶりも表現されている。

バターをたくさん使ったリッチな食パン「ムー」

 それに、夢のようにふわふわでやわらかい。食感というのは、微妙な味のちがい以上にメディアで伝わりやすいものだ。櫻井シェフが作りだすパンはすべて食感が特徴的。私はぷにゅぷにゅ系と呼んでいる。大量に水分を加え、コンベクションオーブン(ファンで熱を対流させるオーブン)で焼くことから生まれる。

トーストセット

 フレンチトーストのベースになっている角食「ムー」も、ぷにゅっとした食感。そのありえないやわらかさに、私の隣の席でトーストを一口食べた女子が思わず「やべっ!」と叫んだほど。なんでも、レシピ開発時に、数字をまちがえて、偶然こんなとんでもない食感になったのだという。

バターをたくさん使ったリッチな食パン「ムー」