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個性ある喫茶店との取り組み

 90代を筆頭に高齢の女性客で常にいっぱいの「ミウラ」。席を移動しながら世間話に花を咲かせ、毎日何時間も過ごす人もいる。創業50年以上の「ナポリ」は亡くなった先代から引き継いだ伝統的なモーニングを提供する。この2店は懐かしい昭和の香りで満ちている。樹齢300年のカナダ産の杉で建てた「カナデアンコーヒーハウス」はサイフォンでコーヒーを淹れており、常連客にはマイカップを貸し出している。

「こうした個性ある喫茶店と、一宮の喫茶文化を発信しよう」と「推進委員会」の取り組みが始まった。

 07年、有志の店が集まってモーニングを出す「一宮モーニング博覧会」を始めた。店を食べ歩くスタンプラリーも行ってきた。

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 約100店舗を掲載するマップは、毎年5万部ほど発行しており、これを土産に持ち帰る人もいる。

「最近では、あのモーニングの一宮ですかと言われることが増えました」と、隆彦さんは微笑む。

 だが、喫茶の経営環境は厳しい。モーニングはもうからない。店主も常連客も高齢化した。若者はセルフサービスのチェーン店やコンビニエンスストアの100円コーヒーに流れる。「あと10年もしたら店は相当に減る」と鷲津さんは見ている。

新しいタイプの若手店主の登場

 ところが、こうした中で新しいタイプの若手店主が出てきた。その代表格が「COCORO CAFÉ」経営の中村有吾さん(39)だ。

 中村さんは08年、骨折で車椅子生活になった祖母のために、建築会社を辞めて店を開いた。「毎日モーニングを楽しみにしていた祖母に来てほしくて、バリアフリーの店を建てました。机は車椅子が入るよう普通より高くし、体重を掛けてもいいように固定しました」。

 モーニングは当初、350円でトーストやサラダを出していたが、あまり利益が出ない。そこで現在は600円の新メニューを始めた。パン屋に「パンの器」を焼いてもらい、ハヤシソースのリゾットを入れたのだ。これが注目されて、客足の絶えない人気店になった。パンの器にビーフシチューを入れた1000円のモーニングもメニューに加えた。

名物のパンの器にハヤシをつぐ中村有吾さん(COCORO CAFÉ)

 中村さんは積極的に外に出た。移動販売車を購入して行事やホームパーティーに出前を始めたのだ。

「祖父母が施設を退所したのでお祝いに」という依頼があるほか、「あの世でも楽しんで」と葬式の供え物に頼まれることもある。

 客と話すとアイデアが浮かぶ。店がある地区は交通の便が悪く、「買い物難民」のお年寄りも来店する。そうした高齢者のために買い物サービスができないか検討中だ。「モーニングの出前と組み合わせれば、足が悪くなって店に来られなくなった人にも配達できます」と語る。

「商品や相場に詳しくないから」と客に相談されて、電化製品を代理で購入したり、車を仲介したりしたこともある。このため古物商の許可を取った。様々な職業の客がいるので、取り次ぐ相手には事欠かない。

 客の不動産業者に「工場を移転させたいから土地をまとめてほしい」と頼まれた時には窓口になった。

「じり貧に思われている喫茶店ですが、実は人と情報の交差点です。これをいかせばいくらでも可能性があります」と中村さんは断言する。

 もはや店のマスターと言うより、地域のマスターだろう。しかもこのやり方は全国で応用できる。

 喫茶は地域を救うかもしれない。