東京下町、谷根千のレトロな街に、小説家の嶋津輝さんは暮らしている。直木賞候補作『襷がけの二人』が文庫化されたのを記念して、猫との日々、執筆への向き合い方、そして小説に込めた思いをご自宅で伺った。

出窓では、お気に入りのキッチングッズが出番を待っている。ピーター・アイビーのガラスの米櫃は、重版した印税で思い切って購入。キュートな丸いフォルムのガラスのコーヒーサイフォンは姉から譲られたもの。(撮影:杉山秀樹)

◆◆◆

美味しそうな手料理が登場

――『襷がけの二人』では、料理するシーンが出てきてお腹が空いてきます(笑)。

ADVERTISEMENT

嶋津 この作品は初めての長編でしたが、劇的な展開ばかりではなく、ある程度日常の描写を重ねないと、主人公をめぐる人々の絆が深まった部分を表現できないと思いました。

 小説の前半では、千代が山田家に嫁いで、そこで女中さんたちと仲良くなっていく過程を描いています。そのあたりの執筆が最も時間が掛かりました。「絆が深まった」と書いただけではもちろんダメなので、具体的な描写を重ねるなかで、掃除や洗濯よりも料理のほうがチームワークを表現するのに一番適していると思いました。

キッチンの壁にも、お気に入りの雑貨を飾って日常使いしている。(撮影:杉山秀樹)

――主人公の千代が初衣と胡麻豆腐を一緒に作ったりしますが、とても美味しそうです。ご自身も料理は日ごろされますか。

嶋津 料理はしますが、同じようなものばかり作るタイプで、上手でもないし好きでもないです。でもその分、料理研究家のような丁寧な暮らしをしている人に憧れがあって、さまざまな方の料理本を愛読しています。どの方の本も、初期の頃の本に載っているものをずっと作り続けています。

――お気に入りのレシピはありますか?

嶋津 栗原はるみさんの「にんじんとツナのサラダ」が好きです。にんじんをほんのちょっと電子レンジでチンをするというのが特徴で、玉ねぎと粒マスタードが利いていて美味しい。

――長年愛されている定番レシピですね。

嶋津 他には、高山なおみさんのれんこんを分厚く切った「れんこんのじりじり焼き」。あと玄米チャーハンのレシピがあるのですが、具が豚こまと小松菜だけで、シンプルで美味しいんです。

 高山さんのレシピは、あまり塩や醤油に頼らず柚子胡椒で味付けしたり、黒コショウを多く使ったりするのが自分では思いつかない点です。よくナンプラーも調味料で出てくるのですが、私はちょっと苦手なので薄口しょうゆを代わりに使ったりします。

窓から見える下町の風景も気に入っている。キッチングッズは地元の雑貨店やネットでこつこつ買い集めてきた大好きなアイテムばかり。(撮影:杉山秀樹)

まるでギャラリーのような執筆空間

――キッチンのすぐ近くに執筆机があるんですね。絵やポスター、可愛い小物などがたくさん飾られて、まるでギャラリーのよう。キッチンの出窓も素敵ですね!

嶋津 ありがとうございます。猫が外の景色を見てくれないかなと思って、猫のために出窓にしたんですよ。でも全然使ってくれない(笑)。

――執筆机のすぐ脇に、ワゴンがあって使いやすそうです。

嶋津 はい。ワゴンの一番上の段には、本当はいろいろと筆記用具なんかを置きたいんですけれども、猫が飛び乗るので、猫用にスペースを空けてあります。

ワゴンはコンランショップで購入したブルーホエールのボビーワゴンを愛用。(撮影:杉山秀樹)