阿川佐和子さんの最新小説『ことことこーこ』(KADOKAWA)は、介護がテーマ。現在進行形で認知症のお母様を介護している阿川さんの実体験も生かされているといいます。担当編集者が聞き手となり、「介護と小説」について伺いました。

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実際にあった母とのやりとりも

――『ことことこーこ』は介護がテーマの小説ですが、読後感が明るいですね。

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阿川佐和子さん ©ホンゴユウジ

阿川 仕事柄、介護を題材とした小説や映画に触れる機会が多いんですけど、みんな暗い。私自身、現在認知症の母がいますから、介護の大変さは日々実感しています。それでも笑えることもあるし、楽しいこともある。そうしたユーモアのある明るい介護小説が書けないかな、と挑戦しました。

――本作は、アラフォーの主人公・香子が離婚して実家に戻ると、母親の琴子に認知症が始まったことがわかり、介護と仕事を両立させようとする、一人の女性の奮闘記です。介護のエピソードがとても具体的ですね。

阿川 創作もありますけど、実際にあった母とのやりとりも入れています。たとえば、琴子が香子の仕事仲間である麻有に、何度も出身地を訊ねるシーン。数分置きに同じ質問を繰り返す琴子に対して、麻有は毎回違う地名を答えるんです。これは母とうちの亭主がやっていたんですけど、どうせ忘れちゃうんだったら、こちらも答えを変えるほうがあきなくていいでしょって。

――琴子とお母様は似ているんですね。お母様の認知症がわかったときは、いかがでしたか。

阿川 ショックだし、寂しかったですよ。父に尽くしてきた母でしたが、年齢的にきっと父より長生きするだろうと思っていたから、いずれ旅行に連れて行ったりしたかったのに。でも、呆けても不幸そうではないので、過去と未来のことは考えずに今を楽しむしかないでしょ。