介護なめんじゃねえよって言われないか
――お仕事の幅をどんどん広げられている中、今後はどんな小説を書きたいですか。
阿川 そんな構想はないです(笑)。そもそもどうして小説を書くのかと聞かれれば、依頼をいただくから。求められているから頑張ってみようかなと思うけど、世間に伝えたいことなんて何もないんです。他の作家の話を聞くと、小さい時から本が好きで、小説を書きたい、読者に届けたいと思っている方が多いから、私なんて小説家失格なのかもしれません。
――依頼があるのは小説家である証だと思いますが……。
阿川 今回不安だったのは、これを介護小説です、と出版して、なめんじゃねえよって言われないかということでした。私は助けてくれる人にも経済的にも恵まれているし、母の呆け方も明るいし、もっと介護で辛い思いをしている人は山のようにいる。甘い甘いって呆れられないかと……。あと、私はすでに、どんな性格でどんな顔しているのか、読者に知られてるでしょ。その先入観を持たれていることは、小説家としては逆ハンディキャップになるんですよね。
――知名度がいい方向に働くこともあるのでは?
阿川 書いている人間の声や性格や姿を知っていると、想像する世界を狭めてしまうと思うんです。もし私がドロドロの血なまぐさい壮絶な恋愛を書いたら、読者は「アガワ、似合ってないぞ」と思うでしょ。そう考えると、別に自分の性格に似たものを書こうとしてるわけではないけど、どこか等身大になっていく傾向はありますよね。本当はそこに対抗しなきゃいけないんですけどね。まだまだ技量不足です。
――それでも、今後も書き続けられるのですね。
阿川 小説という形が自分にとってあっている表現方法なのか、いまだによくわかりませんけどね。文章を紡ぐということはとりあえず30年近くやってきて、これからも続けることしか、道は開けないんだと思っています。