横溝正史の傑作ミステリ『八つ墓村』は、1951年の東映による最初の映画化以降、何度も映像化されてきた。その名作に今回、新たに挑むのは『呪怨』『犬鳴村』などホラー映画の名手・清水崇。そして名探偵・金田一耕助を演じるのは尾上松也だ。
天才肌で変人だが粗野ではない
「これほどの大作で金田一耕助を演じる機会をいただけること自体、誰にでもあることではないのでとても光栄でした。よりモチベーションを上げてくれたのは、清水崇さんが監督を担当していただけるとうかがった時です。ながくホラー作品を撮ってこられた清水監督ですので、新しい『八つ墓村』になりそうだな、と期待感が一気に高まりました」
松也は過去に映像化された『八つ墓村』の中で、渥美清が金田一を演じた1977年の松竹・野村芳太郎監督版や、豊川悦司が演じた1996年の東宝・市川崑監督版、古谷一行演じる2時間ドラマ版などを観ていたという。
「ですが、このお話しが決まってからは、改めて観ることをしませんでした。過去に何人もの個性的な方々が金田一を演じられていますので、どなたかのイメージに囚われてしまうと、この役はできない気がしました。今回の舞台は現代ですし、清水監督と最初にお話しした時にも“皆さんがイメージする金田一像をできるだけとっぱらった形でやってみよう”というお話しになりました」
松也が描いた“新しい金田一像”はどのようなものだったのだろう。
「僕の中の金田一は、着る物に無頓着で、ボサボサ頭をかきむしるとフケが出て……みたいな天才肌の人に特徴的なクセがあるイメージでした。ですが最初の衣装合わせの段階で、衣装はどれも洋服で、コートなどかなり高級な生地が使われていたんです。変わったスタイルかもしれませんが、素材やバランスには金田一のこだわりがある。“何か出来事があると周りが見えなくなる”という特性は押さえつつ、変人のスタイルがちょっとスタイリッシュになっているぐらいのイメージで、人物像を作り上げていきました」
礼儀も物事に対しての分別もあるが、一方で人の家にズカズカ上がったり、図々しい態度をとってしまう。松也はそういった金田一の無頓着感をゼロにはしたくなかった。
「辰弥と出会うシーンでは、金田一のインテリ感のある図々しさを最初から出せたらいいなと思っていました。辰弥にバス代を借りたり、馴れ馴れしく近づいていくのはその典型ですね。空気も読まずにズカズカ入り込んでいくけれど、粗野ではない。知性はあるし計算しながらも、自然と人の懐に入り込むのが上手い。一緒に長く過ごさなければ問題のない人です(笑)」
その“新たな金田一像”を思わせるシーンが物語の後半にある。惨劇の連鎖に呆然とする金田一が「もうこれは手に負えません」と推理を放棄してしまうのだ。
「あれは僕の中では、金田一の愛らしい部分だと思っているんです。歴代の作品でも、金田一って犯人を突き止めた時にはほぼ手遅れっていう状況ですよね?(笑)。その極致が“完全放棄”なんですよ。行くところまで行った初めての金田一かもしれない」
初めてタッグを組んだ清水監督の演出方法については、作品に対する確固たる信念を感じたという。
「作品に対する思い、どう作りたいかという信念がしっかりある方です。この一場面を作ることによって次がどう生きてくるかを常に考えて、全体をある種ひとつの大きな楽曲のように、メロディーで起承転結をしっかりイメージして作っている監督だと思いました。撮り方から役者へのリクエストにもそういう意図を感じます。だからこそ信頼がおけるというか、監督のおっしゃることを忠実に表現していけば大丈夫だ、という空気が現場にありました」



