「きついこともメチャメチャ楽しそう」
──僕も拓真選手が変わったなと感じていました。以前は「井上尚弥の弟」という意識がどこかに見え隠れしていたのが、今は「自分は自分だ」という確固たる自信が見える。
井上 以前の拓はどこか「やらされている感じ」がありました。走り切らなければならないところで最後にペースを落としてしまうことも多々あったけれど今はググッとラストを上げていく。きついこともメチャメチャ楽しそうにやっています。
──天心戦の1年9カ月前の2024年2月、拓真選手がジェルウィン・アンカハス選手に勝った時、真吾さんは珍しく涙を流しました。でも、天心戦、井岡戦ではまったくそんな素振りはありませんでした。
井上 アンカハス選手という強いボクサーに勝ってホッとしたんです。要するに、自信と同じくらい不安があったからこその涙だった気がします。あのときの拓も頑張ってはいたんだけど、自分の目線と一緒ではなくて、もどかしかった。でも、直近の2試合では、もの凄い練習をやって、絶対に勝てる自信しかなかったですから涙なんか出なかったです。もしあれだけやって負けたら別に悔いもない。だから、これからは結果がどうあろうと、拓の試合でもう泣くことはないでしょうね。
──ところで、尚弥選手と中谷選手、拓真選手と井岡選手の試合後の会見では、真吾さんのぐったりと疲れ切った表情が話題になりました。
井上 頭がボーッとしていて、記者さんたちの顔も目に入ってこないし、しゃべっている言葉も耳に入ってこない。完全にからっぽでしたね。自分が話さなきゃいけないところで、拓に「父さんだよ」と促されて……。思った以上にプレッシャーと疲れがあったんだなって気づきました。あんな経験、初めてでした。
※約6500字の全文では、井上尚弥と井上拓真の「兄弟喧嘩」から「反抗期」まで、知られざる秘話をとことん掘り下げています。全文は月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と『文藝春秋』2026年10月号に掲載されています(井上真吾「怪物・尚弥と不屈・拓真 井上兄弟の育て方」)。
■井上真吾(いのうえ・しんご) 1971年神奈川県生まれ。井上尚弥・拓真兄弟の父。塗装業の傍ら大橋ジムで2人のトレーナーを務め、米専門誌「ザ・リング」で、年間最優秀トレーナーに2度選出

