米国のブッシュ大統領は2001年9月11日の米同時多発テロの後、ヤンキースタジアムで始球式を務め、屈服しないアメリカをアピールした。民主社会主義の旗手として注目されるニューヨーク市のマムダニ市長は今年6月、プロバスケットボールNBAの王者ニックスをたたえる演説で、敵対する保守系報道機関からも好意的な反応を得た。

 主義主張や立場を超えて皆を歓喜させてしまうのがスポーツの力であり、そこに利用価値がある。そのために権力者はスポーツに精通しているところを見せ、民衆の歓心を買おうとする。だがトランプ大統領のアプローチは全く違う。スポーツを通じて「グレートなアメリカ」を宣言しても、国民統合は試みない。争点を見つけて反対勢力の存在を浮かび上がらせ、補助金カットなどで徹底的にたたくのは、スポーツが絡んでも同じである。

常識とも言える「ワールドシリーズ」の名称を誤記

 2025年2月に署名したトランスジェンダー選手の女子競技への参加を禁じる大統領令はその典型である。教育上の性差別を禁じる連邦法の解釈を「出生上の性」に限定し、大統領令に沿わない学校に補助金カットで応じると宣言した。また第一次政権では、アフリカ系のプロフットボール選手が始めた人種差別への抗議行動を繰り返し非難した。いずれも国を二分する争点をスポーツ界に見出して反対勢力をあぶり出した。

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 トランプ氏にとってスポーツは闘争の材料に過ぎない。だから大リーグ、レンジャーズのオーナーを務めたブッシュ氏や、スポーツ専門局で大学バスケットボールの勝敗予想をしたオバマ氏のようにスポーツ愛をアピールすることもない。

 スポーツ記者が過去の政権との違いを痛感したのは、第一次トランプ政権の2019年だった。ホワイトハウスの公式サイトが、大リーグのレッドソックスの招待を正式なチーム名の「Red Sox」ではなく「Red Socks」という表記で伝えた。しかも訪問後には「ワールドカップシリーズのチャンピオン」という説明が投稿された。米国人にとって常識とも言える「ワールドシリーズ」の名称を誤記するほどトランプ政権はスポーツ情報に無頓着なのだ。