ポストシーズンへの夢を断たれた今年のバファローズ。しかし、嬉しい話題やシーンにはたくさん出会えました。なかでも心躍ったのは、ベテランの復活。岸田護投手の活躍でした。
背水の陣で挑んだ13年目のシーズン
オリックス・バファローズの2期生。2005年のドラフトで入団した岸田投手は、思えば早い時期からチームのために力を尽くしてきました。思い浮かぶのは、躍動感ある美しい投球フォーム。ゆっくりと足を上げ、胸をしっかりと張り、鋭く振られた右腕から繰り出される力強いストレートとチェンジアップは魅力です。
ただ、振り返れば、その道のりは決して順風満帆ではなかったと思います。1軍に定着した入団2年目に救援投手から先発へ転向し、4年目の2009年は10勝をマークしますが、岡田政権の2010年には抑えがイマイチ安定しない台所事情により、クローザーとしての任を負うことに。もともと1球ごとの間合いが長めでじっくり相手に向き合うタイプ。コントロールも安定していたので適性があったのでしょう。以降は、平野佳寿投手(現・ダイヤモンドバックス)と交代するまでの間、勝ちゲームを締める働きをみせました。
しかし、近年は故障に悩まされ、若手の台頭が目立つチームの中で出番が減りました。昨シーズンは「先発再挑戦」を掲げて臨んだものの、途中で中継ぎに配置転換され、わずか4試合の登板にとどまりました。
背水の陣で挑む、プロ13年目のシーズン。春季キャンプの前、岸田投手に話を伺う機会がありました。救援の場面での起用が想定されるなか、「真っすぐの力とか球速が必要だから」と肉体改造に取り組んでいることに触れ、来たるシーズンに向けて、前を向いて静かに支度を整える。そんな印象を抱きました。実際、キャンプでは福良監督も「今年の球は強い」と発言し、ファンの期待は高まりました。
残念ながら開幕は2軍で迎えましたが、育成から支配下登録され、1軍に抜擢された2年目の榊原翼投手には「お前は頑張ってこいよ」と激励して送り出し、榊原投手は「すごくグッと来ました」と話していたそうです。自分にとっても勝負の年。しかし、気にかけていた後輩にはそういう言葉を発せられる人。それが、岸田護という男なんですよね。
スタジアムアナを退いてからもう5年になりますが、まだ鮮明に憶えているシーンがあります。試合が終わり、選手もシャワーを浴びるなどして家路に就く頃。ひとり、ドームの通路を。巨大なスタンドの下の空間にある通路を何往復もランニングする岸田投手の姿を見かけました。「しっかり汗をかき切って、疲れを残さないようにするためのクールダウンです」と話していましたが、自然体の丁寧な受け答え、プロ野球選手としての自身に真摯に向き合う姿勢に、当時から好感を持っていました。