「子供の頃の私は、決して自分のことを、不幸な子供である、などとは思っていなかった。

そう言う家庭の中であっても、やはり子供らしい希望だとか、子供らしい喜びだとかがあって、そう言う家庭の子供なりに、やはり幸福を知っていたように思う。人の眼から見て、子供の頃の私が、どんなに悲惨なものであったとしても、それは私自身には関係がなかった。

却って、人の眼から見て不幸な境遇であっただけに、不幸に対しては鈍感であり、幸福に対しては感じ易い、――そう言う感じ方で、幸福を知っていたように思う。」(『生きて行く私』)

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単なる「毒父と娘」では終わらない

この幸せに対する感じ方こそ、98歳まで現役を貫いた宇野の原動力だったようだ。晩年の著書『98歳ポジティブ人生のコツ「いつだって今が最高!」』(WAVE出版)でも、宇野は以下のように語っている。

「私は、勿論不幸は好きではない。しかし、正確に言うと、自分を不幸だと思うことの方が、もっと好きではない。」

『ブラッサム』でも、岩国を訪れた80代の珠(演・加賀まりこ)が「先生、今のご気分は」とたずねられ「最高です!」と応えるシーンがあるが、これは実際に宇野がよく語っていた言葉だ。入院中ですら、答えは同じだったそうだ。どんな境遇にあっても、楽しみを見つけ、人生を謳歌する原点が、父と過ごした幼少期にあったのだ。

朝ドラでは、どんな毒父であれ、不器用ながら娘に対する愛情を示し、それが主人公の生き方に少なからず影響を与えるというのが見どころの一つでもある。冒頭紹介した常治(『スカーレット』)やテルヲ(『おちょやん』)もそうだった。

『ブラッサム』では、清治は今のところ腹の読めない恐ろしい父だが、史実を見る限り、これからの珠の人生に大きな影響を与えることは間違いない。単なる「毒父と娘」では終わらない、型破りな父娘がどう描かれるのか、注目したい。

市岡 ひかり(いちおか ひかり)
フリーライター
時事通信社記者、宣伝会議「広報会議」編集部(編集兼ライター)、朝日新聞出版AERA編集部を経てフリーに。 AERA、CHANTOWEB、文春オンライン、東洋経済オンラインなどで執筆。2児の母。
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