名刺を差し出すと…

 最初に訪ねたのは商店街の有力者として知られる宝飾店だった。意気込んで名刺を差し出したが、返ってきた言葉は冷たかった。

「悪いけど、このあたりの商売人はだいたい野村さんと付き合っとるんだわ。うちも親父の代からずっと野村。だから日興さんが来たからいうて、はい今日から替えます、とはいかんのだわ」

 数分で終了だった。

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 その後も似たようなものだった。時計店、呉服店、文具店、電器店。どこへ行っても「間に合っています」「結構です」……そんな返事ばかりだった。

 もちろん追い返されれば気分はよくない。しかし、相手は自分という人間を否定しているのではなく、証券会社の営業マンを断っているだけだと割り切っていた。むしろ断られるのは当たり前で、少しでも話を聞いてくれる人がいれば上出来だと考えていたので気分は楽だった。

 断られた店にも翌週また顔を出した。せめて嫌われないようにと思い、忙しい時間帯は避けた。昼時は訪問先を絞り、接客中ならすぐ引き下がった。

 そんなことを続けているうちに、少しずつ顔だけは覚えてもらえた。

「兄ちゃん、また来たのか」