米トランプ政権が、ICC(国際刑事裁判所)の所長・赤根智子氏を経済制裁の対象に加えると発表したのは今年8月のことだった。ICCはガザ地区における戦争犯罪や人道に対する罪の疑いでイスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状を発行。トランプ政権はこの件をはじめ、米兵の戦争犯罪捜査などに対してICCに強く反発しており、今回の赤根氏への制裁はその報復と見られている。

 検事出身の赤根氏は、法務省からICC裁判官選挙への立候補を打診されたのがきっかけで18年にICCの判事となり、24年3月、日本人で初となるICCの所長に選出された。

ICCの赤根智子所長 ©文藝春秋

 独裁者たちからの不当な“威圧”に毅然と立ち向かう赤根氏とは、どのような人物なのか。昨年6月に上梓した著書『戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない』(文春新書)の担当編集者である鳥嶋七実が、間近に接しての“赤根智子像”を語る。

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「決して諦めない」

 いつも驚かされるのは、厳しい状況に陥っても決して悲観的にならず、諦めることのない姿勢を取り続けていることです。

『戦争犯罪と闘う』の帯を作る際、どんな文言を入れればよいかと思案して、赤根さんにご相談したところ、「決して諦めない」というキャッチコピーを入れてほしいというリクエストがありました。「裁判所の中ではみんな『決して諦めない』って言い合っているのよ。だからその言葉を使ってください」と。その言葉に、逆にこちらが勇気づけられましたし、まるで今の状況まで見通されていたような気がします。制裁がご本人に科された今も、メディアのインタビューで「ICCは決して負けない。正義は常にこれと対極にあるものに優越する、いや優越しなければならない(Justice will and should prevail)。その信念を貫く」と語られていました。

 赤根さんは、ロシア政府から指名手配を受けた際にも、あまり悲観的に受け止めず〈「とうとう来たか」という思い〉でテレビの画面を眺めていたそうです。〈ただちに日常生活が変化したわけではありませんでした。NHKのニュースで事実を知ったあとも、それほど緊張感なく日本で休暇を過ごしていて、大学の同窓会では「あ、指名手配犯が来た」とからかわれたりしていました〉と著書で当時を回想されています。とはいえ、今回のアメリカからの制裁を前にした不穏な動きに対しては、やや敏感になられていました。

ロシアのプーチン大統領 ©時事通信社

 前月には、ルビオ米国務長官がICC加盟国に対して脱退を呼びかけ、ICCの解体を主張しました。