拝啓 近藤一樹様
143試合のレギュラーシーズン、そしてクライマックスシリーズ(CS)と続いた長丁場も終わりを告げたばかりですが、いかがお過ごしでしょうか?
あらためて今シーズンのあなたの“奮投”ぶりには、頭の下がる思いです。実に74試合登板! オリックス時代は主に先発で投げ、何度も右ヒジの手術を受けたあなたが、ヤクルトで中継ぎに転身して昨年は54試合に投げただけでもスゴいのに、今年はチームの全試合の過半数です。74試合という登板数は今季の両リーグ最多であり、ヤクルトの歴史を紐解いても2015年の秋吉亮投手と並ぶタイ記録なのです。
「僕はクラシックカーなんで、投げてないと調子が悪くなるんです」
少し登板間隔が空くとそう言って、来る日も来る日もマウンドに上がっていたあなたに「こうなったら球団記録を狙っちゃいますか?」と水を向けたことがありましたね。まだ夏真っ盛りの8月初旬のことです。「あと26(試合)? どうせなら行ってみたいですね」とあなたが返してきたのを、ハッキリと覚えています。
「僕は打たれるのが仕事なんで……」
それからはこの「74」という数字を一つの目標にしていたようですが、本当は新記録まで行きたいという思いもあったのですよね。シーズン最後の3連戦を前にして、登板数は72試合。3連投すれば、それは可能でした。
「これでシーズンが終わりなら、無理してでも行くべきだと思いますけど、まだCSがあるんで……。なかなか自分から行かせてくださいって言うわけにはいかないです」
チームにとっては15年以来、自身にとってはオリックス時代の08年以来となる大事な戦いを控え、フォア・ザ・チームの精神で新記録達成を封印。タイ記録にとどまりましたが、十分に価値あるものです。
もちろん時には打たれることもありました。そんな時は「僕は『打たれるのが仕事』だと思ってるんで。抑えるのが仕事という立場かもしれないですけど、万が一結果が悪かったら『今日は仕事したな』って。レベルは低いかもしれないですけど、そうやって切り替えていくしかないと思うんで」と、いい意味で開き直っていましたね。
そんなあなたのピッチングは、見ていていつも「楽しい」と感じるものでした。それは「マウンドでつまんなそうにしてたら、応援してくれてる人たちもつまらないと思う。やってる本人が楽しみながらやらなければ、それは伝わらないと思ってるんで」という思いがあったからでしょう。
「打たれたとしても数字が残る。投げれない時は一つも数字が残らなかったんで、負けがつくっていうのも投げないとついてこないんだって、ケガをした結果そういうふうに考え方を変えれるようになりました」
オリックス時代にはケガで投げることができず、一度は支配下登録から外れて育成選手になった経験もしているからこそ、マウンド上で投げる姿からその喜びが伝わってくるのでしょう。
単に多くの試合で投げただけではありません。抑えの石山泰稚投手につなぐセットアッパーとして、積み上げたホールドの数はリーグトップの35。7つの救援勝利と合わせて42ホールドポイント(HP)で、プロ17年目で初のタイトルとなる「最優秀中継ぎ投手賞」にも輝きました。過去には、まだHPではなくリリーフポイントというセ・リーグ独自の指標を採用していた時代に、石井弘寿投手(現ヤクルト投手コーチ)がこの賞を受賞したことがありますが、HP制定後ではヤクルトの投手として初の受賞です。