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2018年の「スワローズMVP」は近藤一樹に贈りたい理由

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/10/18
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今年のベストゲームは開幕第2戦、自身の今季初登板

「もうこれ以上のベストはないと思います」と話していたあなたですが、来年の話になると、こうも言いましたね。

「それ(登板過多)が原因で来年、結果が出ないって言われるのはイヤなんで、(オフは)ケアであったり調整であったりっていうのをしっかりとやって、そう言われないようにっていうのは目標として持ってます」

 実に頼もしい言葉です。そんなあなたの今シーズンのベストゲームは? これだけ投げていれば、印象に残る試合はいくつもあるはずですが、あなたは迷うことなく即答しました。

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「僕の(今季)1試合目だと思います。石川さんが7回まで投げて、途中から行った僕自身の開幕です」

 3月31日、チームにとっては開幕2戦目となる横浜スタジアムのDeNA戦。好投を続けていた先発の石川雅規投手が7回裏に2点を返され、5対3と2点差に詰め寄られてなおも2死一、三塁という場面で、2番手としてマウンドに上がったのがあなたでした。

 迎えるバッターは、1番の桑原将志選手。初球のフォークボールで空振りを取ると、2球目のストレートは内角高めに外れるも、3球目は内角いっぱいに決まってカウント1-2。ここでもう1球、インハイに投げ込んんだストレートに桑原選手が詰まってフライを打ち上げると、あなたは右手でグラブをパシッと叩きました。

「打たれれば間違いなく点差が詰まるし、逆転されるかもしれないっていう状況での(自分自身の)開幕で、しっかりインコースに投げ切れてサードフライっていう、あの試合が僕のベストです。アウト一つですけど、あれがなければ今年の成績はなかったと思います」

 初球に投げたフォークは、今年から改めて取り組んだボール。しかも、開幕前のナイター練習で、ようやく手ごたえをつかんだばかりだったそうですね。そのフォークからの完璧な投球で、ピンチを断ち切った今季初登板。あなたはまだ、どちらかというとチームが窮地を迎えた場面で名前をコールされ、時にはイニングもまたぐという「困った時のコンドーさん」的な立ち位置でした。そのあなたがセットアッパーとして固定されるようになったのは、交流戦前ぐらいからだったでしょうか。

「勝ってても負けてても、ランナーがいてもいなくても、『言われればいつでも投げますよ』っていう彼の姿勢は本当にありがたかった。彼を(セットアッパーに)固定してからチームが強くなったし、右肩上がりになったっていうのはありますね」

 田畑一也投手コーチは今シーズンのあなたの働きを、そんなふうに振り返っています。確かにチームに勢いがついたのは、あなたと石山投手による「勝利の方程式」が確立し、球団初の最高勝率に輝いた交流戦からでした。

今年の私的MVPは近藤一樹に贈りたい

 さて、実はこの記事は「スワローズの私的MVP」というテーマで書いています。チームへの貢献という意味では、プレー以外の面も含めて青木宣親選手の存在は欠かせませんでしたし、これまで経験のなかった一塁のポジションに挑戦しながらトップバッターとしてしっかり結果を残した坂口智隆選手や、記録的な観点でいえば誰も成し遂げたことのない3度目のトリプルスリーを達成した山田哲人選手、球団タイ記録の131打点を叩き出したウラディミール・バレンティン選手も、その栄誉に値するのかもしれません。絶対的な守護神としてチームに安心感をもたらした石山投手も、その一人でしょう。

 でも、個人的には「縁の下の力持ち」として、献身的に投げまくった近藤投手、あなたを選びたかったのです。巨人とのCSファーストステージ第2戦。いつもと同じようにブルペンから小走りにマウンドに向かってファウルラインをヒョイとまたぎ、いつものようにプレートからキッチリ7足分のステップ幅を測って足場をならすあなたの姿を見ながら、「このシーンも今年はこれで見納めかもしれない」という思いがよぎりました。

 前日の初戦を落としていたヤクルトは、この日もその時点で4点のビハインド。しかも、巨人・菅野智之投手にノーヒットノーランに抑えられていました。それでも、少しでもチームに流れを呼び込もうとバッターに向かっていくあなたの姿に、見ているこちらは勇気をもらいました。わずかでも逆転の可能性を信じました。それは見ているファンも、ナインも一緒だったのではないでしょうか。何もこの試合に限ったことではないと思います。96敗という屈辱のシーズンが明けて迎えた今年、あなたのピッチングにどれだけの勇気を与えられたことでしょう。

 だから、『文春オンライン』の看板を借りて、ここに「2018年スワローズMVP」として表彰させていただきます。CSファイナルステージでも、あなたのピッチングを見たかった。それが叶わなかった代わりに、この「文春野球コラムクライマックスシリーズ2018」のファイナルステージに引っ張り出しちゃいました!

 最後にファンの声を代弁させてください。「ありがとう、コンちゃん!」と。

敬具

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