実は、飯塚事件を以前から追っていたのが地元紙の西日本新聞だった。西日本新聞は2018年、自分たちの報道も含めて事件をもう一度調べる「検証 飯塚事件」を始めた。翌年まで全83回に及んだ。
女児由来の血痕から久間氏のDNA型は「不検出」
この西日本新聞の検証取材は、のちに別のNHK番組にもつながっていく。2022年、NHK BS1で飯塚事件を追ったドキュメンタリーが放送された。これを再編集したのが、2024年公開の映画『正義の行方』である。
この作品を手がけた木寺一孝氏は、当時NHKのディレクターで、2012年から飯塚事件を追っていた。なかなか番組企画が通らないなか、「打開のきっかけ」になったというのが、西日本新聞の検証取材だった。
映画が興味深いのは、警察だけではなく、事件を報じた新聞記者にもカメラを向けていることだ。事件当時、警察から得たDNA鑑定の情報をもとに「重要参考人浮かぶ」と報じた西日本新聞の記者は、今の自分だったらあの記事を止めていた、と吐露する。
私は『正義の行方』のパンフレットに寄稿依頼されたので、国会図書館へ行って、西日本新聞の83回すべてを読んだ。今回、NHK「未解決事件」を見たあと、もう一度読み返した。するとどうだろう。今回の番組で浮かび上がった疑問の「前史」が、そこにはすでに書かれていたのだ。
たとえば2018年6月23日の西日本新聞。
見出しは「『先生の鑑定 出ると困る』」。
何の話か。飯塚事件では、科警研のDNA鑑定で、久間氏と同じDNA型が検出されたとされた。ところが実は、福岡地検は別の専門家にも鑑定を依頼していた。帝京大学の石山昱夫教授(当時)である。こちらでは、女児由来の血痕から久間氏のDNA型は「不検出」だった。
そして、ここからである。
石山教授は、当時、ある警察幹部が自分のもとを訪ねてきたと証言している。そのとき、こんな趣旨のことを言われたという。
「私たちは犯人だと思っているので、先生の鑑定が出てくると非常に困る。妥協してほしい」
さらに、
「科学の話をしにきたのではない」
ではその警察幹部とは誰だったのか。2日後の記事でその名前が出てくる。
当時の警察庁刑事局長、国松孝次氏である。