世界的なピアニストとして知られる内田光子氏が、「文藝春秋」11月号(10月9日発売)で経済学者・成田悠輔氏と対談した。
英国を拠点に活動する内田氏が、日本のメディアに登場するのは11年ぶり。これまで2度のグラミー賞のほか、2009年には大英帝国勲章デイム・コマンダー(DBE)を受章するなど、世界の第一線で活躍してきた内田氏が、自身の生い立ちから日本への思いなどを明かした。
対談は、アメリカ北東部ヴァーモント州の小さな町、マールボロで行われた。この町で毎年夏に開催される「マールボロ音楽祭」は、世界の演奏家たちが1カ月以上滞在しながら、ひとつの曲を何週間も練習する“音楽を突きつめる場”。内田氏は、この音楽祭で20年以上共同芸術監督を務めている。
「音楽って教育じゃないんですよ。体験なんです」
まず対談で語られたのは、日本と海外の音楽への向き合い方の違い。1948年に静岡で生まれ、日本で音楽を始めた内田氏。その後、12歳から外交官の父と共にオーストリア・ウィーンなどで過ごした経験から、次のように語った。
「音楽って教育じゃないんですよ。体験なんです。日本人は、すぐ『音楽教育』なんて言うんですけど、『弾く』は英語でPlay、ドイツ語ではSpielen、どっちも『遊ぶ』という意味。楽しみなんです。だから、教育みたいに上から何か正しいことを教え込むものじゃない」
成田氏が、演奏家にとって欠かせない「耳」を鍛えるためにしていることがあるかと尋ねると……。
――絶対的に大事な耳を鍛えるためにされていることは……。
「耳の鍛え方なんてあるなら教えてください」
――それを伺いたいと……。
「ないです。運動じゃないんですから。鍛えれば耳がよくなるかなんて“とんでもハップン(とんでもない)”です」
では、聴くためにできることはないのか。成田氏が問いを重ねると、内田氏は「うまく聴く」という発想そのものに疑問を投げかけた。
――では、音をうまく聴くために、人が何かできることはない?
「全くないです。なんでうまく聴くんです? うまくやろうなんて思うのが甘い。好きであればやるんです。嫌いだったらやらなきゃいいだけ。我々が聴衆に何を求めるかって、オープンであることだけですよ」
対談ではこのほか、ゲーテとシェイクスピアから学んだ言葉や文化と音楽の関係性、日本人女性として音楽の世界で直面した偏見、自身が「信じている四人」の作曲家についても語っている。
全文は、月刊「文藝春秋」11月号(10月9日発売)および「文藝春秋」の電子版「文藝春秋PLUS」(10月8日先行公開中)に掲載されている。

