渡辺 それを金融抑圧と呼びますが、海外の研究者が指摘することがありますね。日本は長いことゼロ金利だったので、預金者が一番損をさせられたと。現代は預金を強制されているわけではないので、戦前とは状況が違いますが、GPIFに国債を買わせようという発想は、モノを言わない国民に負担を押し付けるものですね。
塚口 GPIFの資産は究極的には、大災害のような非線形型の予期せぬ緊急事態が起こった時の「備蓄米」なんだと思います。先人たちが営々と築いてきた財産を、自分の政権維持のために使おうという発想に、拭いがたい違和感を覚えます。
今が最大のチャンス
渡辺 成長戦略のプランBを考える上で、今は大チャンスが訪れていると思います。デフレの30年間、商品の価格が上がらず、賃金も上がらなかった。それが、ようやくインフレに転じて、企業は値上げできるようになり、まだ十分ではないけれど賃金も上がり始めた。人手不足もあって初任給が上がり、私の教え子たちは転職を繰り返し、そのたびに給料が上がっています。スキルを身に着け、次のジョブでさらに稼ぐという労働市場が生まれつつある。
つまり、企業が人材や新規事業に投資をして、より高く商品を売る流れが出てきたのです。そうしたプライシングパワーのある企業が、株式市場で評価されています。
もちろん、まだ過渡期ですから、賃金の上昇が十分でない層、年金が目減りする層などに、政治が適切な手当をすることが大事です。
※約7600字の全文では、利上げの予想について語り合っています。全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と『文藝春秋』2026年11月号に掲載されています(渡辺努×塚口直史「高市インフレ『プランB』なき危険な賭け」)。
■渡辺努(わたなべ・つとむ) 1959年生まれ。東京大名誉教授。専門はマクロ経済で物価や金融政策の研究における第一人者として知られる。著書に『インフレの時代』(中公新書)などがある
■塚口直史(つかぐち・ただし) 早稲田大卒。シティバンクなどを経て世界最大級の運用会社ブラックロックに勤務。2013年に投資顧問・ヘッジファンド運営会社のプラスプラスグループを創業
