昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2018/10/19

「衰えていく自分」と如何に向き合うか

 さて、野球である。こうして見た時、我が国が置かれている状況は、ちょうどキャリアのピークを越え、ベテランに差し掛かった選手の置かれた状況によく似ている事がわかる。自らが若く、伸び盛りだった頃には、誰もが希望に満ちている。自分はまだまだ上手くなり、来年度はきっと今年よりもよい成績を上げることができる。そういう時には人は練習にも仕事にも、そして研究にも前向きに取り組むことができる。

 しかしながら、一旦、自分がベテランに差し掛かり、嘗ての様な成長が止まると、人は時に自らの進むべき方向を見失う事になる。そしてその理由は簡単だ。それまで「成長する自分」しか知らなかった人間は、「衰えていく自分」と如何に向き合うかを知らないからである。後から追いかけて来る若い選手達は、日々成長し、自らが嘗て有していたポジションを脅かす。ドラフトで有力な新人が入ってくれば、或いはこう思うかも知れない。「もはや自分はこの有望な新人に自らの席を明け渡した方がいいのではないか」。

 でも、時にはそこで立ち止まって考える事も必要だ。確かに、自分は嘗ての様なプレーを取り戻す事も、自らのキャリアハイの成績を更新する事も出来ないかもしれない。それでも「今の自分」と同じだけのプレーや仕事ができる人間が、チームや職場に果たしてどれだけいるのだろうか。そして、嘗て遠い若き日、がむしゃらに練習していた頃の自分には、果たして「今の自分」と同じプレーができるのだろうか。そう、「衰えた」事は「できる事がない」事を意味しないのである。

オリックスの新監督に就任した西村徳文氏 ©時事通信社

 西村新監督は高知での秋季キャンプにT-岡田や安達を連れていく事を明言し、こう述べた。「まだ老け込む年齢ではないし、彼らが引っ張っていかないと、若手も付いてこない」。まだ30歳を過ぎたばかりの彼らに対して、新監督がそう言わないといけない状況があるとすれば、寂しい事だ。人生と同じく、時にプロ野球選手のキャリアもピークを過ぎてからの方が長くても良い。彼らが新監督に対して、彼らがもう一度チームにとっての自らの重要性を確認し、チームに対して何ができるのかを、懸命にアピールする姿が見てみたい。そして戻って来た彼らが吉田正尚の前後を固めた時、若き四番打者の孤独も終わるに違いない。そう信じて、今年も秋の高知に足を運びたいと思う。

※「文春野球コラム クライマックスシリーズ2018」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイトhttp://bunshun.jp/articles/-/9281でHITボタンを押してください。

この記事の写真(3枚)

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。