「まさか自分がそこへ送られるとは……」――堺支店に異動してわずか1カ月足らずで、週刊誌に「お仕置き部屋」と報じられた部署への再異動を命じられた元証券マンがいる。
新刊『証券マンひりひり日記』(三五館シンシャ)の著者・日野山大氏だ。相次ぐ異動が家族の絆をも引き裂いていく、その過酷な実態とは。
異動が引き裂いた「夫婦の絆」
頭に浮かんだのは妻の顔だった。堺へ来て、まだ1カ月も経っていない。その矢先にまた異動である。帰宅してもなかなか言い出せず、意を決して「じつは異動が決まったんだ」と切り出した。
「えっ、また異動? 堺に来たばかりじゃない? こんなのふつうじゃないよ!」
妻の表情が一気に曇る。
「あなた、もしかして、また何かしたの?」
日野山氏は首を横に振った。事情を説明しても妻を不安にさせるだけだと思い、「俺にもよくわからない」とだけ答えたが、妻は納得しなかった。
「こんな短期間で何度も異動になるなんておかしいよ。それに、私の体のこともわかってるの?」妻は若くしてがんを発病し、病状は落ち着いているものの定期検査は欠かせず、つねに再発への不安を抱えていた。
「転勤するたびに病院を探して、一から説明して、このたいへんさがあなたにわかる?」
新たに配属された「首都圏営業部」は、中央区日本橋小網町のビルにあった。週刊誌で「窓も、電話も、仕事もない」と報じられた部署だが、改善後も活気は皆無だった。朝から新聞を読み続ける人、資格試験の勉強をする人――証券会社特有の殺気だった空気はなく、「どこかの待合室のようだった」と日野山氏は振り返る。
逆境の中でも、日野山氏は「必ず成果を出して脱出する」と意気込んでいた。しかし、すれ違いと将来への不安は、確実に妻の心を蝕んでいった。
異動から数カ月後、日野山氏のもとに、持病を抱える妻から思いがけない言葉が告げられる。
「もう、あなたと一緒に暮らすのは無理だと思う。離婚してくれない?」
頭の中が真っ白になった。問題はきっとお金ではなかった。
(つづく)
