かつて異動から1カ月足らずで「首都圏営業部」への再異動を命じられた元証券マンの日野山大氏。そこは週刊誌で「お仕置き部屋」と報じられた部署だった。成果を出して脱出すると意気込むが、相次ぐ転勤に妻の不満と不安は限界を迎える……。

 社内で孤立し家族の絆まで引き裂かれた過酷な実態を新刊『証券マンひりひり日記――日興証券25年、公益通報の果て、居場所を失い会社を去りました』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目)

 

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「まさか自分がそこへ送られるとは……」

 堺支店に異動して1カ月も経たないうちに私はまた異動を命じられた。そして、行き先を見て思わず目を疑った。

「首都圏営業部」

 そこは以前、週刊誌で「日興証券のお仕置き部屋」として記事化された部署だった。記事によれば、「窓も、電話も、仕事もなく、会社に居場所を失った社員たちを集めて自主退職を促す場所」とされた。当時、記事を読んだ私は「会社もずいぶん露骨なことをするものだ」と他人事のように眺めていた。窓も電話もない部屋で、行き場を失った社員たちが静かに退職を待つ――そんな話は、自分とは無縁の世界だと思っていた。まさか自分がそこへ送られるとは……。

 頭に浮かんだのは妻の顔だった。堺へ来て、まだ1カ月も経っていない。その矢先にまた異動である。誰が聞いてもふつうではない早さだ。前回の転勤で不満をぶつけてきた妻が、今度はどう受け止めるのだろうか。

 帰宅してもなかなか言い出せなかった。何気ない会話を続けながら、心の中で何度も言葉を吞み込む。しばらく沈黙が流れたあと、意を決して「じつは異動が決まったんだ」と切り出した。

「えっ、また異動?」妻の表情が一気に曇る。私は黙ってうなずくしかない。

「なんで? 堺に来たばかりじゃない? こんなのふつうじゃないよ!」

 叫び出しそうな声で言う。

「あなた、もしかして、また何かしたの?」

 私は首を横に振った。事情を説明しても妻を不安にさせるだけだ。

「俺にもよくわからない」とだけ答えたが、当然、妻は納得しなかった。

「こんな短期間で何度も異動になるなんておかしいよ。それに、私の体のこともわかってるの?」

 高校生のときに発病した妻の小児がんの病状は落ち着いているものの定期検査だけは欠かせなかった。だから、2人の心のどこかにはつねに再発への不安がくすぶっていた。彼女は少し熱が出るだけでも怯えた。

「もし向こうでまた具合が悪くなったらどうするの? 今の病院の先生だって、ようやく私のことをわかってくれたところなの。転勤するたびに病院を探して、一から説明して、このたいへんさがあなたにわかる?」