どれほど足を運んでも、1件の契約すら取れない――。新人営業マンとして飛び込み営業に励むも、雑談ばかりで成果に結びつかず、同期たちが次々と結果を出していく中で焦りと孤独を深めていく苦悩の日々。

 元証券マンの日野山大氏の新刊『証券マンひりひり日記――日興証券25年、公益通報の果て、居場所を失い会社を去りました』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目)

写真はイメージ ©getty

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新規開拓

 新人たちに与えられる仕事は、今も昔もたいして変わらない。新規開拓である。

 顧客を持たない新人は、自分で顧客を探してこなければならない。電話帳と地図を片手に街へ出て、口座を開設してもらうことを目的に、1軒でも多くの会社や商店を訪ね歩く。それが新人営業マンの日常だった。

 朝、営業部の会議で藤堂課長が言った。

「飛び込み営業は中区を6人で分ける。火曜日以外は外回りや」

 誰からも異論はない。新人に拒否権など存在しないのだ。

「火曜日は勉強会でしょうか?」同期のひとりが聞く。

「アホか。電話作戦や。法人リストを配るから、火曜は一日中、電話せえ」

 部屋に笑いが起きた。

 新規開拓は成果が数字ではっきり出る。誰が優秀で誰がそうでないのかが容赦なく可視化される。

 その日の午後、私は地図を持って担当地区を探しに出た。名古屋市中区。繁華街もあればオフィス街もある。私は大須商店街に向かった。アーケードが続き、古い商店と新しい店が入りまじる街だ。万松寺を中心に発展した歴史ある商業地であり、休日に何度か歩いたこともあった。

 銀行員だった父から聞いた言葉を思い出す。

「新しい街は華やかやけどな、昔から続いてる商売には理由がある。古くてもきれいに商売してる店を探せ」

 私はその助言を信じた。幸い、同期たちは栄や伏見などを希望したため、大須商店街は誰とも競合しなかった。飛び込み営業が始まった。