数学を理解する唯一の方法が哲学

 ガブリエル そうです。ところが多くの政治家は、危機を直線的に捉える誤りを犯しています。「一つ解決すれば、次の問題も順番に解決できる」と考えてしまう。

 実際には、一つの問題を解決しようとすると、必ず他の多くの問題にも影響が及びます。その影響はしばしば予測不能です。

成田悠輔氏 ©文藝春秋

 例えば、アメリカがイラン攻撃を決めたとき、政策担当者たちは、それが世界経済にどんな影響を与えるかを完全には予測できませんでした。もちろん予測モデルは作ったでしょう。でも、不確定要素が多すぎる。そして私たちはその予測不能な事態の入口に立っているに過ぎません。

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 今は、多くのアラブ諸国がアメリカ寄りだと考える人もいるでしょう。しかし、30年後にUAEがどんな政治的立場を取っているかなんて、誰にもわかりません。

 重要なのは、どれほど物理的・軍事的に見える衝突の背後にも、知的な構造が存在しているということです。それは厳密な科学によってモデル化することができるし、されるべきものでもあります。

 気象学にも、地球システム科学にも、経済学にも、物理学にも、AIにも、その背後には数学があります。そして、その数学を本当の意味で理解する唯一の方法が、哲学なのです。哲学とは突き詰めれば、極めて複雑な数学を、指導者や社会が理解できる言葉へと翻訳する「概念的かつ民主的な翻訳作業」です。それこそが、古代ギリシャ、古代インド、古代エジプト以来、哲学が果たしてきた役割なのです。

エジプトのピラミッド ©文藝春秋

※約10000字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(マルクス・ガブリエル×成田悠輔「『分断を生むのはテーマではなく、情報の広がる仕組み』マルクス・ガブリエルが警鐘を鳴らす“人類の危機”」)。全文では、以下の内容が語られています。
・哲学が役に立った実例
・「新しい啓蒙」の時代へ
・エコ・ソーシャル・リベラリズム

■Markus Gabriel 1980年ドイツ生まれ。哲学者。ボン大学哲学科正教授に史上最年少の29歳で就任。著書に『倫理資本主義の時代』『なぜ世界は存在しないのか』など

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