わがままで、勝手で、見苦しい感情をリアルに書きたい
千早 この小説はもともと、担当編集さんから「お仕事小説を書きませんか」と提案されて書き始めたんです。がむしゃらに仕事をしたい29歳の女性にとって、自分を前へ進ませる「促進力」のような人とはどんな人だろう。きっと恋人でも家族でもないと考え、そこから生まれたのがハセオでした。
書き始めたのは、ちょうど私が最初の結婚をした頃です。ずっと、形にならない、名前のつかない関係を描きたいと思っていたのに、自分は結婚という契約の中に入ったことで焦りを感じていたのかもしれません。20代のわがままで、勝手で、見苦しい感情をなるべくリアルに書こうと思い、それまで書かないようにしていた固有名詞もはじめて使いました。
三島 私はコロナ禍以降、物語を語ることに重点を置くよりももっと身体に刻まれるような“感じる”映画を作りたいと考えるようになりました。感情を丁寧に追いかけながら、音と映像で構築されていく一筆書きみたいな感覚といいますか……そんなとき、偶然にも『男ともだち』映画化のお話をいただいて……。その偶然には驚きましたが、ぜひ一緒に作らせてくださいとお返事しました。
千早 私はじつは、好きな漫画がアニメ化されただけでももやもやしてしまうタイプなんです。本は、読者が自分の頭の中に完璧な絵を作ることができるので、映像化すれば必ず違和感を覚える方が出てくる。ですから、自分の作品は映像化しなくてもいい、と長く思っていました。
一方で、私は映画が大好きで、映画には敵わないと思うところもたくさんあります。言葉というのは、いってみればいろいろな可能性のある意味を、標本のようにピンで止めてしまうものだと思っています。映画のように言葉に頼らない映像は、どんなふうにも受け取ることができるので、その自由さにはずっと憧れていました。
