成田凌演じるハセオにエセ関西弁を使わせたわけ
三島 成田さんとは小説のハセオを原点にしながら、私からヴィム・ヴェンダーズの『ベルリン・天使の詩』(87年)の天使ダミエルみたいな距離感で佇むんじゃないかとお話ししました。また、先輩にハセオのような人がいるらしくて、その方も参考にするとおっしゃっていました。
千早 その先輩は関西の方だったのでしょうか。映画のハセオは、エセ関西弁で話していましたよね。
三島 ハセオにエセ関西弁を使わせたのは、関西弁のほうが標準語よりもライトで柔らかく聞こえ、他者の内面に滑り込みやすいと思ったからです。原作には、人生の指針になるような「いいセリフ」が多く、標準語で生身の人間が声に出すと少し恥ずかしく感じることがあります。成田さんも「ハセオは神名にずっと“いいこと”を言っているけれど大丈夫ですか」と気にされていましたが、成田さんの優しい声ならエセ関西弁にすることで少しユーモラスに、むしろ誠実に聞こえるのではないかと狙いました。
千早 かっこいい俳優がかっこいいことを言ったら、確かに説教臭く聞こえますね。
「お前、俺がいてよかったね」をどう言うか直前まで話し合った
三島 成田さんとは毎日一対一で話し合いもしながら進めていきましたが、とくに心をくだいたのは、ハセオが神名に「お前、俺がいてよかったね」というセリフでした。あれはハセオが発する言葉のなかで印象に残るセリフで、いろんな感情が伝わってほしいと思ったんです。このセリフをどう言うかについては、成田さんと直前まで話し合いました。「千早さんが好きなセリフらしい」と、無駄にプレッシャーもかけてしまいました(笑)。
千早 そうなんですか(笑)。
三島 どう言うのがよいのか、成田さんもずっと考えてくださっていたので、一緒にフェリーを待ちながら「俺がいてよかったね」と神名に言うのは、裏を返せばハセオにとっても、「お前(神名)がいてよかった」という意味もあるんじゃないか、と話しました。それが成田さんの中にストンと落ちたようで、あのお芝居をしてくれたんです。おかげで、とてもいい表情が撮れたと思います。
千早 本とは違う場面ですが、映画はあそこで言うのがぴったりだと感じました。成田さんが髪を短くされたのも役作りの一環ですか?

